2014/10/7

「ゾウの睡眠、ネズミの睡眠」のルールはヒトにも当てはまるのか

では、エネルギー消費量が大きいほど睡眠時間が長いという関係が人の中でもみられるのか?

動物実験と違って環境や食事の影響を厳密に調整することが難しいため決定打となるデータが得られていないが、やはり同様の傾向があるようだ。実際、年齢とともに睡眠時間が短くなるのもエネルギー消費量の低下が深く関わっていると考えられている。

図3を見ていただきたい。様々な身体機能が年齢とともにどのように低下するか30歳の時を100%として示してある。ここに図1にある睡眠時間のデータを重ねてみると、基礎代謝の低下とぴったり重なることがお分かりいただけると思う。基礎代謝量とは呼吸や体温など基本的な生命維持活動のために消費される必要最小限のエネルギー消費量のことで、年齢とともに緩やかに低下する。

図3 加齢に伴う身体機能の低下。Strehlerのデータから筆者が作成

基礎代謝の低下と言えば聞こえが悪いが、超エコ型に進化したと前向きに考えれば気が楽になる。乳幼児に比較して高齢者では体重当たりのエネルギー消費量が3分の1になる。若い頃ほど眠れなくなったとお嘆きの中高年の方も、爆睡している若者を羨ましがるなどせず「燃費が悪いなぁ」と泰然と構えていただきたい。

とは言え、もっと眠りたいと諦めきれない読者の方へ。確かに定期的な運動や筋トレにより基礎代謝を上げることができれば、理論的には睡眠時間の延長効果が期待できる。しかし実際には、基礎代謝を若者並みに高めることは難しいし、他の心身の要因も睡眠時間に影響するためおのずと限界がある。

とはいえ手が無いわけではない。適度な運動習慣や食習慣によって日々のエネルギー消費量を増やしてやれば、睡眠時間はさほど長くはならないが、深く、連続性のよい睡眠を得るのに役立つことが知られている。

そこで次回は快眠につながる生活習慣について考えてみる。生活習慣は睡眠の長さだけではなく、深さや持続性にも深く関わっている。恋の駆け引き同様に、長く深い眠りは追いかけるモノではなく追いかけられるモノだという話である。

   三島和夫氏
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

[Webナショジオ 2014年8月21日付の記事を基に再構成]

8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識

著者:川端 裕人, 三島 和夫
出版:日経BP社
価格:1,512円(税込み)