文楽「不破留寿之太夫」シェークスピアの人気者登場、反戦の思い鮮やかに

太っちょの大酒飲み、口八丁の女たらし、騎士なのに小心者、でも権力の論理はガハハハハと笑いのめす。ユーモラスで痛快なフォルスタッフといえば、シェークスピア劇の人気者。その姿がなんと文楽人形となって現れた。

国立劇場の文楽公演、第3部「不破留寿之太夫(ふぁるすのたいふ)」でのこと。新作文楽に意欲を燃やす三味線の人間国宝、鶴沢清治が30年来の腹案を実現させた(監修・作曲)。やはり新作に積極的な人形の桐竹勘十郎が奮闘、文楽の外部からシェークスピア学者の河合祥一郎(脚本)、舞台美術の石井みつるが参加した。既存の型にない新しい首を創作した点でも、思い切りのいい企画だ。

すれからしのシアターゴーアーがまず感心したのは、人形の面白さ。キャラクターが見た目ににじみ出ているのだ。石井が英国で学んだ知識を生かし、和洋折衷の衣装を創案。人形をつかう勘十郎が酒やけした首の制作にかかわった。清治も含めた新作チームが、へそのピアスや胸毛もつけてしまえ、と奔放な人形を産み落としたわけだ。

能狂言から移した舞台で用いられる決まりの松を配する構想だったらしいが、石井の装置は舞台を圧する満開の桜。宙に星空が映じると、幻想的な夜が立ち現れる。その大樹の下で悠々と居眠りする不破留寿(フォルスタッフ)の腹が伸縮する。大きく膨らむ叙景の力。宇宙的な神秘に喜劇の時間が兆す。

1時間20分の舞台はシェークスピアの喜劇「ウィンザーの陽気な女房たち」と史劇「ヘンリー四世」を原作とする。ヴェルディのオペラでもおなじみ、同じ恋文を渡した美女たちから手ひどくやりこめられる話は前者から。権力を射止める前の春若(ハル王子)となじみながら、最後は追放の憂き目にあう残酷な運命を後者から引いている。

勘十郎のつかう不破留寿がいい。人形のデフォルメされた大仰な身ぶりが、ふんぞりかえった酔っ払いにはまって生き生き。太鼓腹の動き、へそのピアスがきいている。動く漫画を見るような楽しさだ。桜の大樹が照明効果で立体感を生み、思わず深読みさせられる。桜の木の下には死体が埋まっているのでは……。