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音楽レビュー

2014/9/14

音楽レビュー

座長が偉大であればあるほど、後継者探しは難航する。「幻想交響曲」を聴く前夜、東京・浜町の明治座で「北島三郎最終公演」を鑑賞していて突然、松本のフェスティバルの前途多難が頭をよぎった。昨年10月に喜寿(77歳)を祝い、小澤より1歳年少の「サブちゃん」は昨年の大みそか、ちょうど50回目の出場でNHKの「紅白歌合戦」を「卒業」したのに続き、1968年(昭和43年)から46年間続けてきた座長公演に終止符を打つことを決めた。会期中の9月23日には、その通算4500公演目を祝うはずだ。

「最後の座長」にふさわしい最終公演

北島は前半の「人情味あふれる芝居」、後半の「ダイナミックな歌声で魅了するショー」の2本立てという座長公演のパイオニアであり、今年も星由里子をゲストに迎えた「国定忠治」と「北島三郎、魂(こころ)の唄を…」の2部で正味3時間半の長丁場、日によっては昼夜2公演の過酷な日程をかくしゃくとこなしている。明治座広報の話では「猛暑の中もけいこ場に通い詰め、細かな指示を飛ばす姿はまさに『最後の真の座長』と呼ぶにふさわしかった」と明かす。最後は星もまじえた130人が舞台で乱舞する中、スモークをはき出す獅子のクレーンに乗った北島が「まつり」を朗々と歌い上げ、華やかに終わる。

舞台には北島の三女で女優の水町レイコ、二女と結婚した弟子の北山たけしが頻繁に現れる。特に北山は今年初めて芝居の部に出演したほか、第2部でも自身のソロコーナー、水町との「銀座の恋の物語」のデュエット、さらに専属レーベルを超えた師匠と初のデュエット曲「路遥か」まで受け持つ。明らかに「サブちゃんワールド」のプリンス、後継座長のプレゼンテーションだが、王位継承は松本の場合と同じくらい大変かもしれない。

東京・明治座の「北島三郎最終公演」で師弟初のデュエット曲「路遥か」を歌う北島三郎(右)と北山たけし(写真提供=明治座)

北島音楽事務所のスタッフとして8年間の下積みを経て2004年にデビューした北山は、今年40歳。美声だけでなく、当世風イケメンの若々しく華やかな容姿に恵まれ、和太鼓を打つ場面では肉体美も披露する。スター歌手の要件をいくつも備え、新曲「有明海」でみせた歌唱力にも非の打ちどころがない。だが時に声がかすれたり音を短めに切ったりしてもビクともしない、今の北島の「うまさ」までには気の遠くなるほどの距離がある。歌詞の何気ない日本語の一つ一つに、昭和の時代を生きてきた日本人の様々な思いを重ねつつ、自らの歩みを振り返る北島の「語り」に対し、北山はまだ「歌っている」段階だ。2人が並んで歌った「路遥か」に至ってようやく、未来へ続く希望の光がかすかに見えてきた。

オザワとサブちゃん。クラシックと演歌。1962年(昭和37年)に小澤が代役でサンフランシスコ交響楽団に招かれて米国西海岸にデビューした年、北島はレコード歌手デビューを果たした。北島が18歳で函館から東京へ出て、最初に発声を学んだ東京声専音楽学校は現在の昭和音楽大学と深い関わりを持つクラシックの教育機関だった。2年後のオリンピックに向け東京は発展を続け、人口が1千万人を突破。同じ年にはジャニーズ事務所も創業している。音楽のジャンルもファン層も異なる2人の巨匠、小澤征爾と北島三郎がそれぞれの世界で座長に君臨してほぼ半世紀。まるで違う舞台にもかかわらず、老境の2人がしみじみ、だが依然として輝かしく、ある種同質の感慨を抱かせる背景に横たわるのは、時代精神(ツァイトガイスト)以外の何ものでもない。=敬称略

(電子報道部)

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