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音楽レビュー

2014/9/14

音楽レビュー

ただ「80歳代の展開が楽しみになってきた」と思った積年のファンは多いだろう。10年に食道がん治療に伴う長期休養を自ら発表するまで小澤は世界の演奏会場、歌劇場を過密な日程で飛び回ってきた。弟で俳優の幹雄も「兄貴は万年青年を自負し、いつまでも30歳代と同じスケジュールで突っ走ってきたから相当、疲れがたまっていたんだよ」と漏らしている。

フェスティバル改名とともに浮上する後継問題

「オザワの『幻想』」に群がる聴衆もまた、万年青年の音楽を求め、熱狂し続けた。今回は老熟の味わいをうっすらながら、初めて漂わせた。来年9月1日、80歳を迎える小澤にこの路線の円熟が待っているとすれば、ボストンでの飛躍、ウィーン国立歌劇場音楽監督への転身に続く「第3の扉」が開き、見事な指揮者人生を全うすることになる。

実は、小澤がサイトウ・キネン・フェスティバルを指揮するのは今年が最後。来年からは「セイジ・オザワ松本フェスティバル」と名を変え、引き続き総監督の采配を振るう。最大の懸念は後継者問題にある。恩師の斎藤秀雄への敬慕が背景にあるとはいえ、フェスティバルの実質の「座長」は1992年の初回から一貫して、小澤以外の誰でもなかった。

まつもと市民芸術館の「ファルスタッフ」終演後のカーテンコール。右から2人目が指揮者のファビオ・ルイージ(撮影、大窪道治=写真提供、サイトウ・キネン・フェスティバル松本実行委員会)

人々は「世界のオザワ」が鮮やかに指揮する名人オーケストラ、その人脈で集めた豪華キャストのオペラを楽しみに山間部の松本へ集まる。今年のオペラではチューリヒ歌劇場音楽総監督のイタリア人マエストロ、ファビオ・ルイージがサイトウ・キネン・オーケストラの機能をフルに引き出し、素晴らしい「ファルスタッフ」(ベルディ作曲)を指揮した。しかしチケットは完売に至らない。何よりオーケストラから機能だけでなく、馥郁(ふくいく)とした香りや輝かしい色彩を引き出せる指揮者が今年に至るまで、小澤しか存在しない。

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「最後の座長」にふさわしい最終公演