札幌国際芸術祭2014霧の彫刻に目を遊ばせ、火花放電の美しさにため息

2014/9/9

札幌の市街地からバスに揺られ、「札幌国際芸術祭2014」(9月28日まで)の会場の一つ、札幌芸術の森美術館へ。着くとほどなく、同館の建物の周囲から霧が大量に噴き出してきた。手など肌の露出した部分がわずかに湿り、清涼感が生じる。美術家、中谷芙二子の「FOGSCAPE #47412」という作品だった。

中谷芙二子「FOGSCAPE #47412」(2014年)=札幌芸術の森美術館で展示

綿菓子を思わせるような密度を持つその人工の霧は、建物に面した池の上でみるみる広がった。山あいにいて、気づいたら雲海に入っているようなときとは異なり、霧には厳然たる形が存在していた。1970年の大阪万国博覧会以来、中谷が試みてきたこの表現が「霧の彫刻」と呼ばれるゆえんだろう。

形は刻々と変化する。まるで生物の成長のように。「育つ彫刻」――こんな言葉が頭の中に浮かぶ。成長の様子を見るのは、何ごとにつけ、わくわくするものだ。8分ほどたつと霧の発生は止められ、「彫刻」は文字通り「霧消」した。

札幌で今年初めて開かれたこの芸術祭のテーマは「都市と自然」。ゲストディレクターになった作曲家の坂本龍一が病気療養のため会期が始まっても現地に来られない事態にはなったが、アソシエイト・キュレーターの飯田志保子や四方幸子、地域ディレクターの端聡らは粛々と準備を進め、市内の9会場で芸術祭は始まった。

中谷が表現の素材にした霧のもとともいえる「水」は豊かな自然を象徴し、生命成立の根幹にある物質だが、都市の形成にも必要不可欠な存在だ。

音楽や美術などジャンルにとらわれない芸術活動で知られる山川冬樹は、JR札幌駅から繁華街のすすきの方面に伸びる地下歩行空間「チ・カ・ホ」に設けられた展示空間に、古着を貼り合わせて作ったカヌーや流木を置いた。これらは、山川がこの芸術祭のために体を張って敢行したパフォーマンスの証拠物である。

会場の一つとなった札幌駅前通地下歩行空間「チ・カ・ホ」の展示風景。1日7万人以上が往来するという
山川冬樹「リバー・ラン・プラクティス:石狩湾から札幌駅前地下歩行空間へ遡上する」の展示風景=札幌駅前通地下歩行空間「チ・カ・ホ」で展示

7月30日に山川は、このカヌーに乗って石狩湾から石狩川をさかのぼり、同じ水系の創成川などを経て16時間をかけて札幌に上陸した。「リバー・ラン・プラクティス:石狩湾から札幌駅前地下歩行空間へ遡上する」と名づけられたこのパフォーマンスは、ネット放送「ユーストリーム」で実況された。

さらに今の時代ならではの動きが表れたのは、ネットを通じたリアルタイムの反響だろう。短文投稿サイト「ツイッター」を通じて情報が広がり、川から上陸するときには、50人ほどの人々が実際に集まって出迎えたという。パフォーマンスはユーストリームやツイッターを通じて広まり、人々が実際に応援に駆けつける。ネットを通じた情報がここではバーチャルの世界で閉じずにリアルと自然につながっている。

「人々は、海から川をさかのぼって町をつくった。『チ・カ・ホ』のある場所も、昔は水脈でした」と四方は言う。ところが、もともと市内に13あった湧き水が、都市をつくる近代化の過程ですべて枯れたという。水は都市形成の重要な要件だったが、実際にはその恵みは姿を消したということだ。山川のパフォーマンスは、多くの人が普段は気づくこともない水の記憶を掘り起こす。

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