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「立派な大人がいれば子どもは育つ」 俳優、役所広司(上)

2014/9/6

不条理な現実を静かに受け止め、自らに課せられた仕事を最後までやりとげる。葉室麟の直木賞受賞作を映画化した「蜩ノ記(ひぐらしのき)」(10月4日公開)で、日本を代表する俳優・役所広司さんが、そんな気高い武士の役に挑んだ。「立派な大人がいればいい子どもが育つ」。そうしみじみ感じたという役所さんに、新作にかける思いを聞いた。
インタビューに答える役所広司さん

「出演を決めたのは、小泉堯史監督と一緒に仕事をしたかったから」と言う。小泉監督は黒澤明監督のまな弟子として知られる。その作品に出演するのは、かねて念願だった。「監督デビュー作の『雨あがる』から『阿弥陀堂だより』『博士の愛した数式』など、小泉監督の作品がずっと好きだった。時間をかけて脚本を練り上げ、『こんな物語をやりたい』という意思が画面から伝わってくる。大げさな表現もけれん味も全くない。だけど何か太い芯のようなものがあり、『あぁ、これが映画だな』といつも感じていた」

「蜩ノ記」は、ある罪によって10年後の切腹を命じられた武士・戸田秋谷(しゅうこく)が主人公。不条理な運命を受け入れ、藩史編さんの仕事をしながら気高く生きる日々を描く。監視役として派遣されながら、秋谷の姿に感銘を受け、慕うようになる若い武士・庄三郎(岡田准一)との師弟愛や、秋谷と深い信頼で結ばれた妻・織江(原田美枝子)と娘・薫(堀北真希)との家族愛も見どころだ。

「いずれ腹を切ってこの世からいなくなるとは思えないほど、秋谷は穏やかで覚悟ができている。強い人間なんでしょうね。過酷な運命を受け入れられるのは、与えられた(藩史編さんの)仕事に誇りを持ち、『これをやり遂げれば何の悔いもない』という思いがあるからでしょう。途中、藩の重大な秘密が発覚するが、(自分が)お家を守ることは国(藩)を守ること、そして国を守ることは家族を守ることにつながる、と秋谷は確信している。だからこそ自分の動揺する姿は見せられないと覚悟を決めたのかもしれない」

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