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南麻布セントレホール「ランチタイムコンサート・福原彰美(ピアノ)」 昼30分だけの憧憬と夢想の音楽

2014/9/2

「実力のある若手演奏家に活躍の場を提供したい」。こう考えるスタインウェイ・ジャパン前会長の鈴木達也氏は、南麻布セントレホール(東京・港)で毎週木曜日の「ランチタイムコンサート」を企画運営している。約100席の会場で入場料1000円(会員500円)。30分余りの超ミニ公演だ。2012年3月から始めて8月で118回に達した。昼時にふらっと立ち寄り、米国在住の福原彰美のピアノリサイタルを聴いた。

会員500円、一般1000円で約30分間楽しめるランチタイムコンサート(8月21日、東京都港区の南麻布セントレホール)

車の行き交う明治通り沿いのガラス窓にブラインドが下がり、漏れ入る日差しが天然の照明となって室内を淡く引き立てる。陽光が届かない場所には米国スタインウェイのグランドピアノが1台、気品のある風情でたたずんでいる。スタインウェイのニューヨーク工場で1927年に製造されたL型、ケースナンバーF54型というマホガニー板目木地艶消し仕上げのピアノだ。

「このオフィスビルのオーナーの友人から、天井までの高さが4メートルある3階のスペースを有効活用したいと言われたのがきっかけ」と鈴木氏は言う。「毎週良質なクラシック音楽を地域の人々に楽しんでもらう」との趣旨で始めた。客は近隣に住む高齢者や女性が中心だが、「近くにフランスとドイツの大使館があり、音楽好きの大使館員もよくやってくる」という。

演奏家選びは「私の独断だが、将来性があるのに日本で公演の機会が少ないアーティストを呼んでいる」。2012年3月の第1回公演では、ポーランド・ミロシュ・マギン国際ピアノコンクール優勝など数々の受賞歴を持つ英国のピアニスト、ローナン・マギルが登場した。ロシアのミハエル・カンディンスキーや岩崎洵奈、浦山純子、宮谷理香、山辺絵理らピアニストのほか、バイオリンや声楽の公演もしている。

ランチタイムコンサートをプロデュースする鈴木達也氏

鈴木氏はヤマハの米国本社社長などを経て1997年にスタインウェイ・ジャパンの社長に就任。慶応義塾大学時代は男声合唱団に所属するなど、趣味と仕事の両方で音楽に関わってきた。現在はスタインウェイ会最高顧問を務める。知名度や人気にとらわれず、余裕を持った鑑識眼で実力派のアーティストを選び出し、自分の企画する毎週のコンサートに出演させているのである。

そして8月21日に登場したのはピアニストの福原彰美。日本学生音楽コンクール小学生の部西日本大会2位など幼少時から才能を発揮し、15歳で単身渡米してサンフランシスコ音楽大学とジュリアード音楽院で学んだ。自身のCD2枚のほか、米国の世界的チェリスト、クリスティーヌ・ワレフスカと共演したライブCDも出している。ニューヨークとサンフランシスコを拠点に活動しているため、日本での知名度は高くない。しかし「テクニックはもちろんのこと、彼女独自の音楽がある」と鈴木氏は高く評価する。ランチタイムコンサートへの出演もこれで3回目だ。30分間で福原はどんな説得力のあるピアノを弾くのか。鈴木氏の司会に続いて福原が「最近は古い時代のパリの写真を見るのが好きです」とあいさつし、演奏が始まった。

始まりはドイツの作曲家ヨハネス・ブラームス(1833~97年)の晩年の傑作「6つの小品(作品118)」から「間奏曲(インテルメッツォ)イ短調」と「間奏曲イ長調」の2曲だ。超ミニ公演に合わせての福原の選曲は的確だ。何しろ2曲とも演奏時間が短い。特にイ短調の方は2分程度しかない。それでいていきなり波打つような激情から始まり、聴き手を昼間から一気に憧憬と夢想のロマン派世界へと引き込む。

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