彼の声域は特に高音が広く、並の男性ボーカリストではなかなか出せないフレディの音域をもカバーできる。米オーディション番組「アメリカン・アイドル」の難関を勝ち抜いた実力は、2013年春の単独来日公演を見て間違いないと感じていたが、やはり歌唱力は本物である。

自作のエレキギター、通称「レッドスペシャル」で千変万化のサウンドを繰り出すブライアン(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

ただ、あえて課題を挙げれば、声の線の細さだろうか。ポップス歌手としては全く問題のないレベルだが、高音域でも力強さと野太さが求められるハードロックにおいては、やや物足りなさも感じた。その点では百戦錬磨のロッカーで、ブルース志向の強いポール・ロジャースに一日の長がある。もちろん、アダムもこれからロックの場数を踏んでいけば、声の強さは増していくだろう。

ポールの場合、フリーやバッド・カンパニー時代から活躍する大物だから、クイーンも彼のオリジナル曲を何曲か演奏するなど、気を使っていた面はある。その意味では、若いアダムはむしろファンの立場に近く、あこがれのバンドで歌える喜びを全身で表現していた。今や伝説的な存在になったブライアンやロジャーとファンを結びつける役割を果たしてくれたといえる。

観客の心が最も揺さぶられた場面は、コンサートの中盤に訪れた。アコースティックギターを手にしたブライアンが弾き語りした「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」だ。フレディ作曲の美しいバラードで、かつてクイーンのコンサートでは、観客がフレディと一緒にこの曲を大合唱するのが定番になっていた。

この日もお約束通り、観客は声をそろえて歌い始めた。オールスタンディングで押し合いへし合いのアリーナ前方にいた筆者も、周囲の若者やオールドファンたちと一緒に声を張り上げた。

65歳になったが、ロジャーのパワフルなドラムは健在だ(C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.

ところが、次の瞬間……。ステージのスクリーンに、生前のフレディが歌う姿がパッと映し出された。ふと、彼がサマーソニックのステージで歌っているかのような錯覚に陥る。それまでは60代になったステージ上のブライアンやロジャー、若さいっぱいのアダムの姿ばかりが映っていたから、まさに不意を突かれた形だ。恐らく、満場の観客の全員が不意打ちを食らった。

さあ「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」の続きを歌わなくては。なのに声が詰まって歌えない。周囲も同じだった。さっきまでの大声はどこへ行った。隣に立っていた30代くらいの巨体の男性は、両手で顔をおおって号泣している。45歳で逝ってしまったフレディへのファンの思いが、ここで一気に噴き出した感があった。

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