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「白鯨」の元ネタは小説より壮絶だった[ナショジオ] ありえない生還劇

2014/9/21

ナショナルジオグラフィック日本版

「事実は小説よりも奇なり」といいますが、絶体絶命の危機から生還した実話も、すぐには信じられないようなエピソードばかりです。ナショナル ジオグラフィックが集めたそんな実話の中から、特に「ありえない生還劇」をご紹介します。

南太平洋で捕鯨船が巨大クジラに激突された。乗組員たちは手こぎボートに分乗し、3カ月近く漂流する。食糧が底をつき、空腹と狂気に苦しめられた彼らが生き延びるためにとった行動は…。小説『白鯨』の元になった実話は、さらに壮絶だった。

海で潮を吹くマッコウクジラ。エセックス号はマッコウクジラと衝突した Shutterstock (c) Eric Issele

■外洋でのつらい仕事

19世紀、捕鯨は生活に不可欠だった。鯨油はランプの燃料やろうそくの原料になり、鯨蝋(げいろう)はさまざまな薬に使われた。捕鯨は手堅く報酬を得られると同時に、きわめて過酷な仕事だった。

米国の捕鯨産業の拠点は東海岸のナンタケット島にあったが、最も豊かな漁場は南太平洋。男たちは大西洋を南下し、南米最南端のホーン岬を回る1万2000キロの困難な旅を経て、やっと仕事に取りかかるわけである。捕鯨船エセックス号がナンタケット島を出発したとき、これから2年半は家族に会えないことを男たちは承知していた。

■クジラの逆襲

運命の日は、出航から1年3カ月後、1820年11月20日に訪れた。

エセックス号がマッコウクジラの群れを発見し、1頭ずつ狙い撃ちしていたとき、考えられないことが起こった。巨大な1頭が、群れを離れて船に突進してきたのである。

クジラは船に激突し、乗組員たちは甲板に投げ出された。船長は乗組員に指示を出そうとしたが、船は制御不能に陥っていた。クジラは向きを変え、再びこちらに突進してきた。巨大な背中がまたしても船体に激突し、船は大きく揺れた。20人の乗組員はわずかな食糧をできるだけかき集めて、3艘(そう)の手こぎ舟に次々に乗り込んだ。10分もしないうちにエセックス号は転覆した。

28歳のジョージ・ポラード・ジュニア船長は現在位置を南米大陸の西、3700キロと推定し、64日間の旅を乗り切れるだろうと考えた。逆算して食糧を配給すると、1人1日当たりパン数十グラム、小さな固いビスケット1つ、水およそ0.3リットルになった。健康な大人に最低限必要な食物摂取量のおよそ3分の1、最低限必要な水分量の半分だ。

11月30日までの10日間で770キロ進み、食糧はまだあった。男たちは空腹で疲れていたが、意気は高く、ポラードは、みんなこの旅を乗り切れそうだと楽観的に考えた。

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