健康診断の結果に、性別など新基準範囲 読み解き方は
報告書の数値について人間ドック学会は「今後の基準づくりの第一歩となる研究成果。病気の治療は今までどおり医師と相談してほしい」と改めて解説したが、いまひとつ分かりにくい。そもそも基準範囲とは?
病気の予防や早期発見のための基準範囲づくりには、健康な人、病気の人の区別なく膨大な検査データの分析が不可欠。あいち健康の森健康科学総合センターの津下一代センター長は「日本の健診は米国のデータを流用することから始まったが、1961年に久山町研究という大規模疫学調査が始まり、10年ほど前から日本人に合った基準へと見直されてきた」と話す。見直しは今後も継続される。最近はIT技術の進歩で、国内で行われた健診のビッグデータ解析も行われ、今回の"新基準"も約1万5000人の健常者の解析結果の一つというわけだ(図1)。
「基準範囲」と特定健診などの健診の「基準値」の差について津下センター長は、「予防医学では10年後にどんな病気を発症しやすくなるかを予測し、生活習慣改善の提案を目的に基準値を定める」と説明。そのため、6年前に始まった特定健診では、糖尿病などメタボリック症候群の予防につながる基準値は、従来より厳しくなった。
では、今回の騒動を私たちの健康づくりに生かすとしたら? 津下センター長は「健診データは自分の財産。正常、異常で一喜一憂するのではなく、体の状態を読み解くデータとして考えてほしい」と話す。
基準範囲内であっても値が大きく変動したときは不調のサインの可能性があるので医師に相談を。また、従来の基準値は成人男子の結果を中心に設定されていたが、今回の結果で男女差、年齢差も明らかになり、考慮された(表、図2)。今後はこうした"差"に対する理解や対応も変わってきそうだ。
津下センター長は「一度きりの人生をどう健康に過ごすか。女性なら、若いころに筋肉を増やしたり、骨を丈夫にしておくことが、閉経後の健康を守ることにつながる。その指標ともなる健診データをもっと積極的に活用してほしい」と話す。
1.自分が分布のどこにいるのかを知る
検査値が正常か異常かだけに注目するのではなく、まずは自分が日本人の検査値の分布の、どの辺に位置するかをしっかり受け止める。
2.正常値内でも変化に注目
毎年の結果の変化に注目を。たとえ正常範囲内でも数値の大きな変化は病気のサインの可能性が。かかりつけ医などに相談を。
3.性別、年齢で基準数値が変わることに留意
今回の調査で明らかになった男女差、年齢差に注目を。自分に起こっている変化が、どれぐらい「自然」なのかを知る手がかりにする。
4.正常値内であっても、複数項目の重なり注意を
検査値が正常の範囲内であっても、境界に近い数値の項目が複数あれば早めに生活改善を。
1.悪性腫瘍、慢性肝疾患、慢性腎疾患 などにかかったことがない人
2.退院後1カ月以上経過している人
3.高血圧、糖尿病、脂質異常症などの 薬を常用していない人
4.喫煙していない人
5.飲酒は1合未満の人
今回の基準範囲は"いま健康である人"の範囲を初めて"見える化"したものと考えるといい。今後もデータの積み重ねが必要で、今回の数字は中間発表的な数字。人間ドックの検査基準が、今後この数字になるわけではない。
この人に聞きました
あいち健康の森健康科学総合センター、センター長。「健診の結果は、病気の早期発見だけでなく、自分が行った生活改善の結果を確かめる『よかった探し』に役立ててほしい。そのことが健康度アップにつながると思います」
(科学ライター 荒川直樹)
[日経ヘルス2014年9月号の記事を基に再構成]
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