「ものをよく見るため」という眼鏡の概念を変えたという意味では、サングラス以来の“発明”だったといえるかもしれない。
2011年9月に発売された、“ブルーライト”カットの機能性をうたう「JINS PC」(ジェイアイエヌ)の総販売数が、2014年5月末で400万本を超えたという。スマートフォン(スマホ)やタブレット、パソコンのLED(発光ダイオード)ディスプレーから強く発せられる青い光・ブルーライトをカットするという機能を持つ眼鏡だ。
ブルーライトは、目に見える光(可視光)の中で、肌老化を進行させることで知られる紫外線に隣接する短波長の光で、高いエネルギーを有する。散乱しやすくちらつくため、長時間のパソコン作業などによって目が疲れる原因になる。
このブルーライトをカットし、眼精疲労やドライアイ、網膜のダメージを防ぐために開発されたのが「JINS PC」だ。
夜ブルーライトを浴びると、体内時計が狂う
しかし、ブルーライトは目の疲れだけでなく、実は私たちの生活リズムの根本に関わっている。なぜならブルーライトは太陽光にも含まれており、太陽とともに生きてきたヒトにとって、体内時計の最も重要な調整装置になっているからだ。
朝、私たちが太陽光を浴びると、網膜がキャッチした信号が脳の視交叉上核に届き、松果体に指令を出して、睡眠を司るホルモン・メラトニンの分泌を急速に抑える。同時に“朝だよ”という信号を全身に送って、体内時計を日中時間に合わせる。
このブルーライトを、夜間、スマホやパソコンといった、ブルーライトを強く出す光源から大量に浴びたらどうなるだろう?
10年以上前から、ブルーライトは、長めの波長のオレンジ光と比べて、メラトニン分泌を大幅に抑えることが指摘されていた[注1]。つまり、夜この光を浴びると、良質な睡眠をもたらすメラトニンが十分に分泌されないことで睡眠障害が起きたり、ブルーライトが視交叉上核に働きかけるため、夜中なのに体内時計をリセットし、そのリズム(概日リズム)を狂わせてしまったりする危険性があるというわけだ。
実際、20歳前後の若者で、深夜にブルーライトを増強してタブレットを使用する実験を行ったところ、メラトニン分泌量が使用開始1時間で約50%、2時間で約65%抑制されたという報告もある[注2]。
[注2]Appl Ergow;44(2),237-240, 2013