初○○、男装… キーワードで読むアイドル最新動向
日経エンタテインメント!
キーワード1:国立から武道館まで「初○○」が続出、ライブ会場規模は拡大
2013年の夏にAKB48とももいろクローバーZが、ライブが可能な常設の施設としては日本最大級の日産スタジアムでの公演を実現し、アイドルライブの規模拡大はひとつの頂点を迎えたと言える。2014年に入ってからは、再び両者が国立競技場での公演を開催する一方、ライブ規模拡大の波が、より広がりを見せている。
秋元康氏プロデュースのグループでは、SKE48が2014年2月に単独のドーム公演を実施、HKT48は春から夏にかけて、アリーナツアーを行った。乃木坂46も横浜アリーナを満杯にした。
2014年で目立つのは「初日本武道館」組。5年以上の活動歴がある、でんぱ組.incや9nine(ナイン)が念願の舞台に立つ一方、活動開始3年に満たないBABYMETALやチームしゃちほこなど、幅広いグループが"聖地"で公演した。
背景にあるのがファン層の広がりだ。複数を掛け持ちして応援するアイドルファンが増加しているのがひとつの要因。また、でんぱ組.incやBABYMETALの武道館公演は、アリーナがスタンディング席で、パフォーマンス中にロックバンドのライブのようなサークルモッシュが起こった。ジャンルの垣根を越えてライブを楽しむ若いファン層が増えているのが、アイドルライブの集客に大きく貢献しているようだ。
キーワード2:女性ファンが8割の「男装アイドル」、苦節6年を経て急浮上
あるイベンターが「今一番、我々が呼びたいグループ」と打ち明ける、男装アイドル・風男塾(ふだんじゅく)。理由は「女性客を連れて来てくれるから」と明快だ。
2008年、中野腐女子シスターズ(当時)の定期ライブの企画で生まれた、メンバーとは別人の男性(という設定)のグループが「腐男塾」。当初は、色物的な見方をされていたのも確か。しかし2011年に「風男塾」に改名し、続く2012年に、男性という設定を止め、男装を公言したあたりから若い女の子のファンが急増。ファンクラブ会員の8割以上を女性が占めるようになる。
2014年3月に中野サンプラザを満員にし、10月には日比谷野外大音楽堂でのワンマンも決まった。結成6年目のブレイクが目前だ。
キーワード3:アーティストでも触れ合います 「ボーダーレスアイドル」が増加中
一昔前は、ロックバンドやダンスボーカルグループは、握手会などアイドル的な活動とは一線を画すことが多かった。しかし現在は、イベントでCDを複数枚買えば、握手や写真撮影が可能になるなど、アイドルのお家芸と言えるファンとの触れ合いを販促に取り入れている例が少なくない。ダンスボーカルグループのE-girlsやフェアリーズは、ショッピングセンターのイベントなどで握手会も併催して盛況だ。
「こちらからアイドルとは名乗らないが、ファンやメディアからそう見られる分には気にしないし、メンバーも理解している」とあるグループのスタッフは語る。
狙いは、販促だけではない。「いまの時代ファンになってもらうには、人となりを伝えることが必要。ツイッターなども活用するが、触れ合う力は大きい」(同)。技術力があるアーティストであれば、親しみやすさとスキルの高さとのギャップが魅力にもつながる。
SNS時代になり、ファンとの距離が近くなっているからこそ、身近に感じさせられるアイドル的な活動が効果的と言えそうだ。
キーワード4:「ローカルアイドル」本格ブレイクへ、飛躍するグループが増えそう
あるアイドルイベント関係者によると「現在、東京に500組、地方に500組、合わせて約1000組のアイドルグループが全国には存在する」という。その半数を占めるローカルアイドルのブームが本格化している。
当時東京では無名だった、仙台を拠点とするドロシーリトルハッピーが「TOKYO IDOL FESTIVAL」に出演したことで一気に注目を集めたのが2011年。その後、福岡のLinQや松山のひめキュンフルーツ缶など、人気と実力を併せ持つグループが相次いでメジャーデビューした。
また、2013年放送されたNHKの朝の連続ドラマ『あまちゃん』でローカルアイドルにスポットが当たったこともあり、地方のアイドルシーンが改めて活性化した。
東京のイベントで、高い集客力を見せるグループも少なくなく、1000人規模のワンマンライブを実施するグループも次々と出現。2013年暮れから2014年にかけて「1000年に1人の逸材」としてブレイクした橋本環奈も福岡のグループ所属だ。なぜローカルグループが東京で強いのか。
キーワードは「本格派」
「まず、地方在住なので東京でライブをなかなか見られないというレア感があります。さらに『本物』や『本格派』がローカルアイドルのキーワード。歌やダンスのスキルの高さや楽曲の質の良さに、アイドルファンが気づきはじめたのでは」と指摘するのは、ドロシーリトルハッピーが所属する仙台の芸能事務所・ステップワンの佐藤文彦社長。同社は、自社でグループを展開するほか、モーニング娘。'14の石田亜佑美やSUPER☆GiRLSの渡邉幸愛などを送り出してきた。
"本格派"が育つ理由については、「キラキラしたイメージでは、中央のアイドルにはかなわない。また地方はまだまだ保守的で、東京で受けるようなサブカル的な文化は、なかなか受け入れられず、ダンスのうまさが支持される」(佐藤社長、以下同)。こうした状況が重なり、ローカルアイドルは自然と歌やダンスのスキル面で勝負する道を選ぶことになるという。
ローカルアイドルが所属する地方の芸能事務所は小規模なことが多いが、これもデメリットにはならない。例えば、東京のプロダクションに勝る要素として、幼少時から所属させ、じっくり育てられる環境が挙げられる。
「高校野球と同じで、小学生の頃から育てるから甲子園でも勝負になる。我々のような事務所は規模こそ小さいが、その分、タレントを家族ぐるみできめ細かくケアできる小回りの良さがあります」
いまのアイドルシーンは、イベント出演やグッズ販売などで、手堅く収入を得られるビジネスモデルが確立されているため、小規模でも参入が比較的容易。また地方では、自治体や地元企業のイベントなど、活躍の場は意外と多い。
活動費用はかかるものの、例えば節約のため、東京まで何時間もかけてクルマで集団移動し、ライブに出演したというエピソードは、美談としてファンに受け止められ、ファンに「応援したい」と思わせるアイドル性につながる。
育成したタレントは自社で展開するほか、時には東京のプロダクションやレコードメーカーなどと連携して、フレッシュなアイドルとして送り出すことで、シーンを活性化している。こうした現状を背景に、自らの利点を生かした地方の事務所が存在感を増していると言える。
(ライター 大貫真之介、高倉文紀、田口俊輔、上原太郎=日経エンタテインメント! 写真 荒金大介=Sketch、加藤康)
[日経エンタテインメント! 2014年7月号の記事を基に再構成]
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