2014/9/9

結局のところ、睡眠時間の遺伝率は高いのか

評判の悪い遺伝率に話を戻すと、これまでに報告されているさまざまな心身機能の遺伝率の例として、記憶力(0.32)、知覚速度(0.46)、推理力(0.48)、体重(0.80)、知能(0.80)、身長(0.86)などがある。もちろん研究の対象集団(年齢、人種など)によっても異なるので、あくまでも参照値としてご覧いただきたい。

それでも、知能(0.80)や身長(0.86)の遺伝率は遺伝子のチカラが強いのだろうなぁ、と思わせる。実際、「栴檀(せんだん)は双葉より芳し」「男子の身長=(父親の身長+母親の身長+13)÷2+2」などの言い伝え(?)があるように、身長や知能などは世間一般でも “親から受け継ぐ”表現型として認知されている。それらに比べれば睡眠時間の遺伝率は低めだが、睡眠時間の長短に厳然として遺伝的影響が関与していることはご納得いただけると思う。

睡眠時間が遺伝的影響を受けているという発見は、睡眠研究者にとって大いなる朗報である。今後は影響力を行使している遺伝子の特定やその機能解析に精力が注がれることになるだろう。いや、すでにこの瞬間にもブレイクスルーになるような大発見がなされているかもしれない。

また、双生児研究、遺伝研究では表現型を正確に把握することがとても重要である。睡眠時間は明瞭な表現型のように思われるかもしれないが、実はそうではない。

乳幼児の遺伝率は0.60~0.70と非常に高いのに、大人になると低くなるのには理由がある。乳幼児は心身(遺伝子)が求めるままに眠るのに対して、成人後は“大人の事情”で恣意的に睡眠時間を操作することが多いため、見かけ上の遺伝的影響度が低下するのだ。もし遺伝的影響を強く受けている必要睡眠量を表現型として用いることができれば、関連する遺伝子群を探索するパワーも一気に高まることが期待できる。ただし、前回も書いたように必要睡眠量の測定はとても大変な作業なのである。

そこで次回は、我々がチャレンジした必要睡眠量の測定研究とその個人差を生み出すメカニズムについて考えてみたい。

   三島和夫氏
三島和夫(みしま・かずお)
1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。1987年、秋田大学医学部医学科卒業。同大精神科学講座講師、同助教授、2002年米国バージニア大学時間生物学研究センター研究員、米国スタンフォード大学医学部睡眠研究センター客員准教授を経て、2006年6月より現職。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。これまで睡眠薬の臨床試験ガイドライン、同適正使用と休薬ガイドライン、睡眠障害の病態研究などに関する厚生労働省研究班の主任研究者を歴任。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

[Webナショジオ 2014年7月24日付の記事を基に再構成]

8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識

著者:川端 裕人, 三島 和夫
出版:日経BP社
価格:1,512円(税込み)

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