「非正規」不安を乗り越える4つの方法
中長期の視点に立ちキャリアを考えてみよう
「ずっと働き続けられるか心配」「長期的なキャリアプランを考えにくい」──非正規社員として働く女性にとって、雇用の不安は大きい。お仕事不安を解消し、自分らしいキャリアを築くには、どうしたらいい?
「それまで身に付けたスキルを武器に、正社員を目指すのは一つの方法」とリクルートワークス研究所の中村天江さん。中村さんによると、労働契約法の改正で18年以降は、契約社員であっても、同じ会社で長く働く道が法的に整備されるという。
「13年4月以降、契約社員は一つの職場で5年間働くと、『無期社員』への転換を選択できるようになりました」。無期社員とは、文字通り雇用期限のない社員のこと。正社員と同様の昇給や手当が保障されるわけではないが、一つの会社で長く働くルートができる。
一方、派遣社員を巡っても、15年に労働者派遣法が改正される見通しで、派遣を取り巻くルールが大きく変わることになる。
ただ、労働市場全体で見ると、女性の非正規雇用の割合は年々増え、13年は過去最高の55.8%に(総務省の労働力調査)。キャリアカウンセラーの錦戸かおりさんは「雇用全体が不安定化しているなか、正社員でも決して安泰とは言い切れなくなっている」と話す。長く自分らしく働くためには、どんな雇用形態であってもひとりひとりが組織に頼らないキャリアプランを立てていくことが大切になる。
一方で、今の職場で真摯に仕事に取り組み、人とのつながりを大事にすることも不可欠だと2人は口をそろえる。「コミュニケーション力に長けた人は需要が高い。そのため、人から人への紹介で仕事を見つけやすくなります」(中村さん)。今の職場で力を発揮し、周囲との信頼関係を築いておくことが、次のキャリアにつながる。
「企業の求人意欲が旺盛な今は、自分らしい仕事を考え、チャレンジするのに適した時期」と中村さん。今後、一つの職場で長く働きたいなら正社員を目指して転職サイトに登録してみる、スキルアップを目指すなら専門スキルを身につけられる派遣先を探すなど、中長期的な視点でこれからの働き方を考えてみよう。
非正規雇用を取り巻く環境はどうなる? 変化を読み解く5つのキーワード
(1) 専門職の人材ニーズが上昇
「労働市場が流動化し、専門スキルを持つ人材へのニーズが高まるなか、安心して任せられる技術を持った人は人材難の状態。今でいうとウェブ系などの専門スキルがあれば、どこででも求められる存在になれます」(中村さん)
(2) 働き方がますます多様化
正社員、限定正社員(準社員)、非正規社員……と働き方が多様化しつつあるなか、「一つの仕事だけでなく、複数の仕事を持つ人も増えています」(錦戸さん)。さまざまな働き方のなかで、自律的に自分のキャリアを考えていくことが大切になってくる。
(3) 仕事の掛け持ちが常識に?
終身雇用、年功序列といった従来型の雇用形態が崩れ始めており、今後収入が右肩上がりで増えることは難しくなる。副業などで収入を補強する人が増える可能性大。また、キャリアを強化する意味でダブルスキル、トリプルスキルを求める人も増えつつある。
(4) サービス業での雇用が急増
「20年のオリンピック需要で、サービス系業務のニーズが増すことは確実。その後も高齢化に伴い、介護などの医療や情報サービスの分野で雇用が伸びます。これらの職種は慢性的に優秀な人材を求めているので、女性活躍の場も多く、長く働ける可能性もあります」(中村さん)
(5) 「派遣35歳限界説」が崩れる?
「若手の労働力人口が減り、全体的な年齢構成が上がったことで、年齢の縛りは緩やかに崩れつつあります。人材育成している余裕のない企業も増えているため、即戦力となる人材はどこも欲しい。今後もこの流れは続くでしょう」(中村さん)
~非正規不安を乗り越えるために今できる4つのこと~
【1】 正社員を目指し、必要なスキルを磨く
「雇用と収入の安定のために、正社員を目指す方法も」(中村さん)。法改正により、派遣先の会社で無期雇用になる可能性もある。長く働きたいと思う職場なら求められるスキルを磨いたり、今後転職で正社員を目指すなら企業情報を集めたりしよう。
□ 一つの職場で長く働きたい
□ 責任のある仕事がしたい
□ 安定した給料を得たい
【2】 専門性を身に付ける
「女性が活躍しやすい職種に、4つのR(PR、IR、HR、CSR[注])があります。専門スキルが得られる上、女性のコミュニケーション能力が生きる仕事です。派遣からのステップアップを目指して実務経験を積んでおくと、キャリアに役立つ可能性も」(中村さん)
□ 人に教えられるスキルを身に付けたい
□ どこでも求められるキャリアを築きたい
【3】 "やりたいこと"をもう一つの仕事にする
収入が安定しづらいことは、非正規雇用の大きな不安要素。オフタイムを利用して副業を始めれば、収入源が増える。また、この副業を通じて新たなスキルを身に付けたり、やりたい仕事に取り組んだりすれば、キャリアの幅や可能性も広がっていく。
□ 収入を増やしたい
□ やりたい仕事がある
□ キャリアの幅を広げたい
【4】 人とのつながりを大切にする
「優れたコミュニケーション能力は、実は最も重視されるスキルの一つ。うまく人間関係を構築できる人は、どんな場でも必要とされます」と中村さん。また、「休日に仕事とは関係のないサークルなどに入って人脈をつくるのもおすすめです」(錦戸さん)
□ 専門スキルにはあまり自信がない
□ 人的ネットワークを築きたい
15年から施行される見通しの労働者派遣法の改正により、派遣のルールが大きく変わる。法改正において注目すべきポイントは、「同じ職場で働ける期間が上限3年になる」という点だ。これまで企業での派遣受け入れには、「業務単位で最大3年間」というルールがあったが、今後は「人単位で最大3年間」に変わる。
期間終了後は、(1)派遣先に直接雇用される(2)派遣会社が次の派遣先を紹介(3)派遣会社が無期雇用するなどの措置が取られることになる。また、派遣会社には派遣労働者の教育訓練などが義務づけられ、働き手のスキル向上をサポートする仕組みが整えられる。ただし、秘書や通訳など、これまで企業の受け入れ期間に上限がなかった専門26業務にも3年ルールが適応されるため、長く同じ職場で働いていた人にとっては、職場を変えざるを得ない状況になる可能性もある。
この人たちに聞きました
キャリアカウンセラー。キャリア開発支援「がんばれ工房」主宰。著書に『働く女性が35歳の壁を乗り越えるためのヒント』(河出書房新社)がある。http://blog.livedoor.jp/usaginojun/
リクルートワークス研究所 主任研究員。東京大学大学院を修了後、99年にリクルート入社。Tech総研の立ち上げやリクナビNEXT・リクルートエージェントの企画などを手がけた後、09年から現職。労働市場に詳しい。
(ライター 西尾英子)
[日経WOMAN2014年5月号の記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。