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『孫子』の教えは現在もなお生き続けている

『孫子』の教えは現在もなお生き続けている

企業経営者の間で、中国古典の兵法書『孫子』ファンは少なくない。とくにヒト・モノ・カネの経営資源に制約がある中小企業にとっては「戦わずして勝つ」「敵を知り己を知れば百戦して殆(あや)うからず」といった孫子の教えは魅力的に映り、自社の経営の参考にしようと考える向きがあるのかもしれない。本書『孫子に経営を読む』は、経営学の大家が独自の視点で孫子を読み解く一冊だ。孫子の文言の解釈とともに、該当する企業の事例などを交えて記している。経営トップや現場の管理職などのリーダー層、組織の第一線で働くビジネスパーソンにもぜひ、手にとってほしい指南書だ。

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著者の伊丹氏

著者の伊丹氏

著者の伊丹敬之氏は国際大学学長で一橋大学名誉教授。1969年に一橋大学大学院商学研究科修士課程を修了後、72年に米カーネギーメロン大学経営大学院博士課程を修了し、博士号を取得しました。その後、一橋大学商学部で85年に教授に就任。東京理科大学大学院イノベーション研究科教授を経て、2017年から現職。米スタンフォード大学で客員准教授も務めています。『マネジメント・コントロールの理論』『経営戦略の論理(第4版)』『日本型コーポレートガバナンス』『日本企業は何で食っていくのか』『日本企業の復活力』など多数の著書があります。

『孫子』の言葉から経営のあり方を読み解く

本書は2014年に刊行した同名の書籍の文庫版。著者の伊丹氏と孫子とのつながりは深く、孫子を特集した2016年9月10日号の『週刊ダイヤモンド』の中のインタビューで伊丹氏はこう述べています。

「私が経営戦略の文脈で孫子を意識するようになったのは30年以上前のこと。『経営戦略の論理』を書いた際に、戦略といえば孫子だということで、あらためて読んでみたのがきっかけです。初版以来、4回改訂していますが、そのたびに孫子からの引用が増えていて、初回で1カ所だったものが、4回目では7カ所になりました」。本書は、孫子をテーマに伊丹氏が考える経営学を正面から取り上げたものといえるでしょう。

序章と6章からなる本書は孫子の30の言葉を取り上げ、著者が独自に再構成しています。1~3章では、章別に「君」(経営者)、「将」(現場責任者)、「兵」(一般社員)と階層ごとに、リーダーの心得やあるべき姿、さらに組織を引っ張る上で欠かせない社員の心理構造に触れています。後半では孫子から学ぶ戦略的思考など、より高次の組織や経営の理論に昇華させています。

本書で特徴的なのは、孫子の解釈にとどまらず、関連する企業の事例を記している点です。戦後まもなく高炉建設で大型投資に踏み切った旧川崎製鉄(現JFEホールディングス)や、東日本大震災発生時の東京電力福島第1原子力発電所、日本航空の経営再建、さらに米グーグルやアップルのIT大手の躍進、韓国サムスン電子の半導体戦略など、国内外を問わず孫子が説く教えにひきつけて解説を試みています。これは孫子の兵法が現在の企業経営にも通じる証左でしょう。

著者は本書の執筆の狙いを巻末でこう述べています。

『孫子』自体の本としての流れとはまったく別に、経営の世界の体系にもとづいて各章を立てて、内容を組み替える。各節のタイトルには孫子の言葉を用いる。その言葉のなぜを考え、その言葉をもとに経営の世界への適用を考える、そんなエッセイを書く。長さは、各節を3000字程度にして、読み切り風にする。
それがこの本のスタイルだが、それは本の構想を練るごく初期の段階で、自然に出てきたアイデアだった。経営学者の書く孫子本、ということを意識したからかも知れない。これまでに多く出ている『孫子』に関する本とは、少し趣の違う本ができたと思う。
(あとがき 273~274ページ)

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