健康機器大手のタニタ(東京・板橋)は2017年から、働き方改革として「社員の個人事業主(フリーランス)化」という制度を始めている。希望した社員が一旦退職して、個人事業主として会社と業務委託契約を結び直す制度だ。働き方改革に詳しい相模女子大学大学院特任教授の白河桃子さんが、谷田千里社長に聞いた(以下、2人の敬称略)。
自己裁量で仕事をしているか

白河 本日はずっと注目していた御社に念願かなっての訪問です。「残業削減だけを目指す働き方改革では、生産性や働きがいの向上にはつながらない」という考えから、御社が「日本活性化プロジェクト」を発表したのが16年。その目玉が社員が個人事業主になるというものです。当時は非常に斬新な制度として注目され、複数の企業が後に続いています。導入5年目を迎えた今、御社でどんな変化が起きているのかうかがいたいと思います。そもそも、なぜこの制度を導入しようと思ったのか、その経緯から聞かせていただけますか。
谷田 ご注目いただき、ありがとうございます。この制度は、働く「時間」の問題ではなく、働く人の「主体性」を高めたいという思いから生まれたものです。社員のメンタルヘルスについて分析すると、働く時間と心身の健康には必ずしも相関がないことに気づいたのです。
つまり、長時間働いていてもイキイキと働き、成果を出している社員がいる。私自身も、ものすごく働くタイプですが倒れない。スタートアップの起業家たちなんて、私よりもっと働いていますが非常に元気です。「長時間働いて倒れる組と倒れない組に、何の違いがあるのか?」と突き詰めた結果、決定的だと考えたのが「働かされている感があるのか、自ら働いている感があるのかの違い」だったのです。
白河 自律的なのか、つまり、自己裁量で仕事ができているかどうか、ですね。
谷田 そうです。では、「働かされている感」から社員を解き放つにはどうしたらいいだろうか――。そう考えて発想したのが、「社員という立場から解放する」という方法で、社員の個人事業主化だったのです。つまり、被雇用者ではなく、自分自身が経営者として自己裁量の権限を創出する機会をつくるという狙いでした。
世間でご注目をいただき、おっしゃったように同様の制度を導入する企業も出てきました。ただ、どうもその意味合いが当社とは異なるように感じることもあります。社外から収入を得ることを公認し、これからは他でも稼いでねというメッセージを発している印象を受けることもあるのです。