
バイオリンの故郷、クレモナ。イタリア北部に位置するこの街は、16世紀にアンドレア・アマティが現代につながるバイオリンを製作し始めてから、今に至るまで、世界のバイオリン製作者の拠点であり続けている。
クレモナには2200年の歴史がある。かつてはローマ人やランゴバルド人、スペイン人、オーストリア人などに占領、略奪されてきたうえ、致命的な感染症も乗り越えてきた。現在は人口7万人ほどの小さな街に、150人以上のバイオリン職人が暮らしている。
2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、ロンバルディア州を襲った。ミラノの南東約70キロに位置するこの街も大打撃を受けた。患者が殺到する病院、取り乱す医療従事者、あふれかえる遺体安置所。世界中の人々がクレモナの映像を見て心をかき乱された。
しかし現在、クレモナはその有名な楽器とともに復興を遂げようとしている。旅行者たちは、優美な教会にうっとりし、大皿に盛られた肉料理グラン・ボッリートで腹を満たし、イタリアで最も高い時計塔である約110メートルのトラッツォに登るため、再びクレモナを訪れている。
なかでも復興の原動力となっているのは、ルシアー(リュティエ)と呼ばれるバイオリン職人たちだ。工房ではロックダウン中からバイオリンが製作され、奏でられ、その音が古都の閑散とした通りに響いていた。
クレモナのバイオリンコミュニティーも回復に向かっている。21年9月24日には楽器の国際見本市が復活し、10月には大規模な弦楽器専門学校、ストーファー弦楽器センターが始動する予定だ。ここでは世界的に有名な音楽家たちがバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバス奏者を育成する。
バイオリンを作り続ける職人
ロックダウン中もバイオリン製作を続けた一人がフェルナンド・リマ氏だ。リマ氏はポルトガル出身の59歳の職人で、新型コロナがクレモナで猛威を振るっている間、自宅から出ることも、親類に会うことも、日光浴を楽しむこともできなかった。しかし、バイオリンに使われているメープルを削り、完璧な形と音に仕上げることができた。
筆者がパンデミック(世界的大流行)前に工房を訪れたとき、リマ氏はバイオリンを丹念に成形する作業で瞑想(めいそう)状態に近づくと語った。そして最近、再び話を聞くと、パンデミックの最も厳しい時期にこの癒やしの効果にどれほど支えられたかを説明してくれた。