
サメときくと、力強く神秘的で孤独な深海の魚というイメージを持っていないだろうか? どこからともなく現れ、攻撃を仕掛ける「孤高の捕食者」――こうしたイメージでサメは長年メディアに登場してきたからだ。
ところが今、従来のサメの孤独なイメージが覆されつつある。というのも近年、世界各地のサメ研究者が、サメが集まって仲間づきあいをしていることを発見しているからだ。
米フロリダ国際大学の海洋科学者ヤニス・パパスタマティウ氏の研究チームは、音波発信機を使って、ハワイ南西部のパルミラ環礁に生息する約40匹のオグロメジロザメの交流を4年間記録した。
この結果は、2020年8月に学術誌「英国王立協会紀要B」に発表された。論文によると、オグロメジロザメは何年も同じグループで過ごしていて、明らかに特定の個体と一緒にいることを好む傾向が見られ、なかには4年ものあいだ続いた「友情」もあったというのだ。
ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラー(協会が支援する研究者)でもあるパパスタマティウ氏は、「サメは、ほかの個体との間で何年も続くような社会的関係を築けることがわかりました」と言う。彼のチームの研究は、ナショナル ジオグラフィックTVのサメ特集『シャーク・フェス』で公開されたエピソード「Shark Gangs」(日本での放送未定)で紹介された。サメたちの社会的関係は、実際にはもっと長く続いていたかもしれないのだが、音波送信機の電池の寿命が4年だったので、データもその期間しか収集できなかった。
16年に科学誌「Scientific Reports」に掲載された別の研究でも、米国の東部沿岸に生息するシロワニ(ネズミザメ目のサメ)の間に、複雑な社会的ネットワークがあることが確認されている。当時、米デラウェア大学に在籍し、この研究を主導したダニエル・ハウルジー氏によると、こうした関係は、以前は、チンパンジーのような高等な哺乳類にしか見られないと考えられていたという。

記録装置を取り付けられたサメたちは仲間と何千回も交流し、4日間も一緒に行動していたペアもいた。
この研究では、一部のサメが、たまたま一緒にいたわけではなく、明らかにお互いを気に入って一緒に行動していたこともわかっている。
モート海洋研究所(米フロリダ州サラソタ)の海洋生物学者であるジャスミン・グラハム氏は、「サメは殺人マシンであるという固定観念は、新しい研究によって払拭されるでしょう」と言う。
グラハム氏は、「個々のサメの性格や社会生活に関する研究は、私たちが思っている以上に彼らが『人間的』であることを示しています」と言う。ちなみに彼女は、サメの科学的研究への参入を希望する有色人種の女性を支援する団体「マイノリティーズ・イン・シャーク・サイエンス」の代表兼CEOでもある。