
パパスタマティウ氏が21年6月13日付で学術誌「Journal of Animal Ecology」に発表した新しい研究では、フランス領ポリネシアのオグロメジロザメの驚くべき行動を記録している。「波乗り」だ。オグロメジロザメは泳ぎ続けるサメの一つだが、パパスタマティウ氏は、数百匹のサメが海中の水流にのり、滑るように泳ぐ様子を捉えた。サメたちは水流にのることでエネルギーを蓄え、眠る機会さえ得ていたのだ。
「私たちはサメが特定の海域に集まる理由を探していましたが、これがその答えです」とパパスタマティウ氏は言う。「この発見はほかの沿岸海域にも当てはまり、サメが好む海域とそうでない海域がある理由を説明できるかもしれません」
性格の差
サメの仲間づきあいには、これといった目的が見つからない場合もある。ビミニ・サメ研究所のスムコール氏らは、若いレモンザメが明確な理由もなくほかの個体と仲良くしようとすることを発見した。これまでの研究から、それぞれのレモンザメには個性があり、ほかの個体と一緒に過ごすかどうかに影響を及ぼしている可能性があることがわかっている。
研究チームが本来の生息地の中の外洋水槽でレモンザメの赤ちゃんを観察したところ、幅広い社会的気質が見られ、ほかの個体と頻繁に交流する社交的な個体もいれば、単独行動を好むつきあいの悪い個体もいることがわかった。
人間と同じように、このような性格の違いは、成功や生き残りにも影響する。スムコール氏の研究によると、外洋水槽の中で「探索好き」と判定され、記録装置を取り付けてから海に放されたレモンザメの赤ちゃんは、野生でも大きなリスクを冒し、より遠くまで餌を探しに行く結果、より早く成長し、より短い期間で成熟することがわかった。
ただ代償もある。早く成長したサメは、捕食者に遭遇する可能性も高くなるため、生存率が低下したという。
まだあるサメの秘密
資金不足やサメの悪評のせいで、サメの研究の歴史は古いとは言えない。そうでなければ、サメたちの秘められた生活について、もっと多くのことが明らかになっていただろう。「サメの研究が本格的に始まってから、まだ20年ほどしかたっていないのです」とロウ氏は言う。
さらに厄介なのは、サメの個体数が減少し続けていることである。主な原因は乱獲だ。1970年以降、サメやエイの個体数はじつに71%も減少しており、特にオグロメジロザメは深刻な状況にある。
しかし、「マイノリティーズ・イン・シャーク・サイエンス」のような取り組みのおかげで、サメの科学はこれまで考えられなかったような方法で拡大し、多様化しているとグラハム氏は言う。
「今後数年間で、サメについてさらに多くのことが明らかになると思います」とグラハム氏は期待する。「これまで以上にサメを理解できるようになると思うとワクワクします

(文 MELANIE HAIKEN、写真 TANYA HOUPPERMANS、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年8月1日付]