今の自分と社会を接続してくれる作品を

――オンラインのラインアップと、映画館での上映ラインアップは違うということですが、どのような選定基準ですか?

ル・シネマの劇場で上映される作品は基本的に各配給会社が権利取得された映画であり、全国の映画館で公開されるものです。そのため、劇場で上映される作品をオンラインでも配信する、という考えはありませんでした。

オンライン上映用として自社で権利を取得する作品の選定で重要視しているポイントは2つあります。

まず「一人ひとりに寄り添うような作品」であること。多くの人々が一つ共通の何かで熱狂できるというのは、間違いなく映画という文化が持つ魅力ではありますが、そのあり方とまったく等価値に、たとえ通常規模での公開をかなえられない作品でも、誰かにとってすごく大切な作品となり得る映画があり、あるいは誰かひとりの小さな声をすくい上げるような映画がある。そうした作品に触れられるパーソナルな場所として「APARTMENT」を想定しています。これにはプライベートな空間で作品を鑑賞する、というオンライン映画館特有の性質も関係しています。部屋で、ひとりで見たからこそ、すごく心に残っているという映画もあると思うので。

もう一つはその映画を通して、今の自分と社会を接続してくれるような作品であること。これはル・シネマの劇場上映作品の選定でも重要視されているポイントですが、スクリーンもモニターもディスプレーも、すべてそのまま世界に通じる窓であり、『これは今見るべき映画だ』という作品を選定しております。たとえば、「ホラー映画専門」「バカンス映画専門」など、わかりやすいコンセプトでまとめたほうがサービス自体を多くの方に認知していただきやすいとは思いますが、曖昧なムードや個々のグラデーションをなにか一つの枠や言葉でくくりたくなく、自分の中では作品選定のポイントはあえて抽象的なコンセプトのままにしています。

――まだ始まったばかりだと思いますが、反響を教えてください。

発表当初は「まさかあのル・シネマが配信をやるとは」という驚きのお声を頂戴しました。それはやはり映画館と配信は水と油であろうというイメージ、そしてありがたいことにミニシアターの老舗としての印象をお持ちいただいているからかと思います。同時に、今や多くの配信サービスが乱立する中で、「オープニング作品の2本を見て、APARTMENTが目指す方向、他のサービスにないセレクションに込められた思いが伝わってきた」と言っていただいたことがあり、それがとてもうれしかったです。

また、このパンデミックの状況下、あるいは他の様々な理由で「映画が好きだけどなかなか映画館には行けない」というお客様が「ありがたい」と言ってくださるのも印象的でした。

各映画の作品ページには作品ごとに誰かに執筆を依頼したコラムを掲載しており(『Rocks/ロックス』は作家の松田青子氏、『Romantic Comedy/ロマンティック・コメディ』はコラムニストの山崎まどか氏)、それを映画鑑賞と合わせて読むのが、映画館でパンフレットを買うような感覚でよかった、という反応もありました。

APARTMENTは私たちBunkamuraル・シネマにとっては大きなチャレンジです。これからお客様と共にこの場所の雰囲気を作っていけたらと思っておりますので、まずはオープニングの2作品、ぜひご覧ください。

もう1本のオープニング作品『Romantic Comedy/ロマンティック・コメディ』。ロマンチックコメディーの名場面を引用し、ロマコメ映画の魅力と愛についてを探求するフィルムエッセー

(構成 前田かおり)