日経エンタテインメント!

俳優としての経験が可能性を広げる

大輪の花を咲かせるべく音楽のフィールドへと戻ってきた松下洸平。俳優としての活動と並行して歌うからこそ伝えられる思いや表現は、きっとこの先、長く音楽活動を続けていくための武器となるだろう。

「俳優としては10年以上たちましたが、ミュージシャンとしては“ど新人”です(笑)。ただ、俳優としての時間があったから『つよがり』を歌うことができたのかなとは強く感じますね。この曲は、20歳そこそこでは歌えない歌詞ですし、松尾さんに書いていただいたことで、自作の曲では見えない世界も見えるようになりました。誰かの力を借りて表現することで可能性が引き出される感覚は、俳優をやってきたからこそ感じられる面白さだなと、実際に歌ってみて思いましたね。

やはり自分の中で生まれるものって限界があるし、どうしても枠にはまってしまいがちになる。そんなときに、「こんなのどうかな」と松尾さんがさらっとくださる助言で視界が一気に広がるなんてことも多々あり、今回たくさんの刺激をいただきました。そういったアドバイスも、デビュー当時の自分では反応すらできなかったと思います。その貴重な言葉を受け取りなんとか反応できたのは、俳優をやってきてたことで得た経験が大きかったです。

制作する過程では産みの苦しみや葛藤もありましたが、むしろ、作る楽しさを感じることのほうが多かったです。たくさんの方が関わってくださっているから、以前のように僕1人の思いだけではすまない。08年のデビュー時と自分の置かれている状況も全く違います。いろんな人と思いを共有する難しさはありますが、そのぶん、音楽を作る楽しさは今まで以上に感じています。

これからは、今を生きる人に必要な歌がどんなものかを考えながら制作したいと思っています。自分の思いを吐き出すことも大事ですが、年齢や経験を重ねて聴く人が世界に入りやすいような間口の広い曲を作りたいと思うようになりました。歌詞を書くことが好きなので、歌詞の可能性にも挑みたいと思っていて。例えば、世界中にあふれるラブソング、誰かを好きだと歌う曲のなかで、聴いた人が「こんな表現があるんだ」という意表を突いた曲を作ってみたいですし、歌えたら楽しいでしょうね。

音楽的には、自分の根っこにあるR&Bとポップスを融合させた親しみやすさを大切にしながら、曲を作り続けたいです。素晴らしいバンドやオーケストラと一緒に大きなステージでライブをするという長年の夢も実現したいですし、音楽の畑でやりたいことはたくさんあります。じっくりと少しずつ種を育てていきたいですね」

(ライター 橘川有子)

[日経エンタテインメント! 2021年9月号の記事を再構成]