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「1センチのブリ」の名は? 出世魚、昇進ルートの謎

2014/8/20

夏が旬の魚として、スーパーなどの店頭に並ぶスズキやイナダ(ブリの子)。いずれも稚魚から成魚までの成長段階にあわせて何度か名前が変わる「出世魚」だ。ところがこの出世魚、実は多くが地域によって途中段階の呼び名が違うらしい。魚の世界の「昇進ルート」はいったいどうなっているのか。
「ブリの子供」と札に説明書きして売られているフクラギ(富山県の氷見漁港場外市場「ひみ番屋街」提供)

寒ブリで有名な富山県の氷見漁港。夏真っ盛りの今、体長40センチ前後のブリの子「フクラギ」が最盛期を迎えている。ブリほどは脂が乗っていないが、その分、魚のうま味がストレートに伝わるとあって、各地から引き合いがある。

地元の北陸ではフクラギの呼称で親しまれているが、出荷する際にはいくつかの呼び名に分かれるというから不思議だ。「イナダ、ハマチなど、出荷先の呼び名に合わせて発送しています」と話すのは鮮魚仲卸、松本魚問屋(氷見市)の松本幸一郎氏。それぞれの地域になじみのある名前にしないと、ブリの子として認識してもらえないから、というのが理由だという。

実は出世魚の多くは、成魚になるまでの途中段階の呼び名が津々浦々で異なる。例えばブリの場合、関東では「ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ」という変遷をたどるが、関西では「ツバス→ハマチ→メジロ→ブリ」となる。

なぜ出世魚の途中段階の名前が各地で異なるのか。この謎を解くには、まず出世魚の「定義」を知っておかなければならない。

出世魚として有名なのはスズキやブリといった魚だろうが、マグロやイワシも同じように成長途上で何度も名前が変わる。ところがマグロやイワシは、出世魚に位置づけられてはいないのだ。

水産大学校の鷲尾圭司理事長は、出世魚の条件として「成魚が『ありがたい』魚であること」をあげる。ブリは古くから、年を越せることを祝う「年取り魚」として年末・年始には欠かせない食材で、タイと並ぶ縁起のいい魚だった。スズキは白身魚を珍重する西日本を中心に人気が高く、「春のタイ」「冬のヒラメ」「夏のスズキ」は三大白身魚とされている。

しかしマグロは、明治時代までは肉に血の気が多いこともあり下魚扱いされていたため、出世魚になれなかった。

ブリやスズキは商品価値が高いため、全国の水揚げ地から江戸や大坂などの大消費地に運ばれた。江戸時代、加賀藩では「献上鰤」として将軍家にも贈った。

一方、それぞれの幼魚は、魚体が小さく成魚に比べて傷みやすいことなどから、もっぱら地元で消費された。とはいえ、食べればおいしい魚なのは間違いなく、それぞれの地域で愛情を込めて、様々な名前がつけられた。ちなみに、ブリの幼魚「ワカシ」は若衆から、「ハマチ」は浜が町のようににぎわう夏にとれることから名付けられたとされている。

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