時代を動かす男優 堺雅人と西島秀俊が2トップなワケ
日経エンタテインメント!
近年、アイドルでもアーティストでもない「男性俳優」のブームは大きく2つあった。2000年に始まった「平成ライダー」を皮切りにした「仮面ライダー&スーパー戦隊ヒーロー」、それから7年後の2007年には、『花より男子2リターンズ』『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』の2大学園ドラマによる空前の"イケメン"ブームだ。
そしてさらに7年後の2014年、再び男優が世間をにぎわしている。その2トップが、堺雅人と西島秀俊だ。堺は2013年、主演連続ドラマ『半沢直樹』(TBS系)が平成で首位の最高視聴率42.2%を記録。2016年のNHK大河『真田丸』の主演も決まった。
一方の西島は、元から強かった映画に加え連ドラでも、局の垣根を越えたビッグプロジェクト、TBS×WOWOW共同制作の『MOZU』で主演。CMの出演社数は9社に及ぶ。
2人に象徴される通り、今回の男優ブームは前の2つの現象とは大きく異なっている。堺は現在40歳、西島は43歳。若手ではなく、経験豊富なO-40(40歳以上)世代なのだ。
NHKから国民的顔に
なぜ今、この2人なのか。その共通点をひもとくと、まず、「NHKが人気の発端」であることが分かる。堺が注目されたきっかけは、2004年のNHK大河ドラマ『新選組!』。三谷幸喜脚本の同作で知性派の山南敬助を演じ、視聴者を魅了。2008年の『篤姫』で演じた徳川家定もハマリ役となった。
西島も、2013年の大河ドラマ『八重の桜』で主人公・八重に影響を与えた兄・山本覚馬を好演。上り調子だった人気を決定づけた。
社会全体の高齢化に加え、バブル以降は視聴者の見る目が肥えたほか、ネットの普及で好みが細分化した、といった時代背景から、「キャスト単体より、それも含め脚本やスタッフなど、全体のパッケージ感で作品を選ぶ人が増えた」とは、複数のテレビや映画関係者の談。結果、テーマ性や物語重視のNHKやテレビ朝日、2003年からドラマ制作を始めたWOWOWの意欲作が注目されるようになった。
特にNHKは、朝ドラは半年、大河は1年と放送期間が長い。さらに両ドラマ出身の男優は近年、CM起用も順調。"国民的顔"になる機会をしっかりモノにしたというわけだ。
また、両者とも世代きっての「知性派」でもある。堺は早稲田大学出身。読書家で知られ、エッセーも執筆する。西島は単館系映画を好み、海外のアート作品に出演、NPO法人 東京フィルメックス実行委員会の理事も務めている。
技巧と肉体による役作り
一方、堺と西島の俳優としての特性は全く異なる。
堺といえば、『半沢直樹』や『リーガルハイ』で見られた「圧巻のセリフ回し」。劇団出身者ならではのテクニックではあるが、「舞台出身だからといって誰でもできるものではない」と、ある映像関係者は言う。「あの明瞭さ、滑舌があってこそ、作品に説得力が出せたんです」。
こうした技巧が、「CMに起用される際の大切なポイントとなってきている」とは、ニホンモニターCM調査課の遠藤雅志氏。高い演技力を持つ人が薦める商品であれば、"確かなもの"に映るのだとか。その辺りが、堺がトヨタ自動車やソフトバンクといった、技術力が要の大企業のCMに起用されている理由のひとつでもありそうだ。
対する西島は、外見を近づける徹底的な役作りで知られる。その最たる例が、映画『サヨナライツカ』(2010年)撮影時の体重の増減。『八重の桜』でも、上半身を鍛え上げた。
今の西島の人気は、「韓流スターのそれに通じるものがある」とは、雑誌関係者。『冬のソナタ』(2002年)以降ブームとなった韓流スターは、徴兵制を背景に、体格の良さが特徴。現在ブームは一段落しており、その空いた枠にハマったという見方だ。また、筋肉質な体は、今や男優界の中心的存在ともいえるジャニーズには、あまりない特質でもある。こうして女性たちの心を捉えた結果、西島はCM出演社数を順調に増やしている。
このように見ていくと、2人ともタイプこそ異なれど、作品に対する真摯な姿勢、演技者としての生き様を感じさせる。これは、阿部寛をはじめとする現在、引っ張りだこのO-40男優にも共通している。
以前なら男優の第1次ブレイクは20代だったが、堺は35~36歳、西島に至っては40歳前後。作品主義の今、年齢は関係なくなってきている。こうして生まれたO-40の"オトナ役者"人気。堺と西島は、社会や嗜好の変化に加え、正当な努力の結果、2トップとなったのだ。
(ライター 関亜沙美、日経エンタテインメント! 平島綾子)
[日経エンタテインメント! 2014年9月号の記事を基に再構成]
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