こんなはずでは…40代「心の危機」への正しい対処法

「今のままでこの先も幸せ?」と揺れる40歳

「30代前半までは若くて体力もありますから、仕事も楽しいでしょうし、独身でも毎日ハッピーに過ごせるでしょう。しかし、30代後半にさしかかり、40代という中年期が目の前に迫ってきた時、『今のままでこの先もハッピーでいられるだろうか』と思うようになります。すると、それまでの自分らしさや価値観だけではこの先は生きていけないと感じます。それが、アイデンティティの揺らぎなのです」

しかし、経験も積み、自分なりの価値観も完成したところで、なぜ「それまでの自分ではやっていけない」と感じるのでしょうか。

「中年期はさまざまな喪失体験をしやすい時期なのです。自分自身の病気や怪我はもちろん、年老いた親の介護や死、子どもの病気や親離れなどですね。また、子どもを望んでも授からないとか、リストラといった経験をする人もいるでしょう。そうした喪失体験をすると、若い頃は無限に思えた自分の人生が、実は有限であるということに気付きます。残り時間を意識したり、場合によっては、それまでの人生設計を変更せざるを得なくなる人もいるでしょう。また、体力の低下など、身体的な衰えを実感しやすいのもこの時期です。仕事の仕方やライフスタイルを変えざるを得なくなるケースも出てきます。そうした危機に直面した時には、それまでの考え方や価値観、自分らしさでは対応しきれないのです」

それまでのやり方や自分らしさが通用しないため、「今までの生き方は間違っていた」「こんなはずではなかった」と、行き詰まりを感じてしまうというわけ。

こう言われると、ミッドライフクライシス=お先真っ暗、と感じてしまう人もいるかもしれませんが、決してそうではないと岡本さんは言います。

「心理学的に『危機』という言葉は、破局的な状況という意味ではなく、回復するか、悪くなるかという決定的な転換点を指します。ミッドライフクライシスもまた、心を発達させ、変容させる転換点なのです」

参考文献:岡本祐子著「アイデンティティ生涯発達論の射程」、「アイデンティティ生涯発達論の展開:中年の危機と心の深化」(ともにミネルヴァ書房)
岡本祐子さん
広島大学大学院教育学研究科心理学講座教授。教育学博士、臨床心理士。青年期より中年期の発達と危機を中心とした、成人期のアイデンティティの発達臨床的研究に携わる。並行して臨床心理士として、子どもから高齢者までのカウンセリング・心理療法を実践。2012年8月、これまでのアイデンティティ研究・ライフサイクル研究の成果が国際的に認められ、アメリカ合衆国Austen Riggs Centerより、Erikson Scholarの称号を授与された。

(ライター 吉田渓)

[nikkei WOMAN Online 2014年6月9日付記事を基に再構成]