院内で不織布マスクの着用を義務付けた

2020年春、マスクが絶対的に不足していた頃、僕は患者に布マスクを勧めていた。CDCのサイトには古いTシャツやバンダナ、あるいはコーヒーフィルターを使ってオリジナルマスクを作る方法が紹介されていたので、そのページを診察室で患者に示していたこともある(なお、CDCのこのサイトは現在は閲覧できなくなっているが、英国紙The GuardianがこのCDCのサイトを紹介した記事は残っている[注2])。

当時は布マスクでも十分な効果があると言われていたし、この事実が変ったわけではない。だが、布マスクは重ね折りして初めて有効になる。例えば、バンダナなら半分に折ってさらに3つに折る、つまり六重折りが必要となる。重ね折りしていない布マスクやポリウレタンマスクでCOVID-19の予防ができるわけではない。

では、実際のマスクの効果はどの程度のものなのだろうか。まずは、香港大の研究[注3]を振り返っておきたい。この研究では、サージカルマスク着用時に、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ライノウイルスのそれぞれがどれだけ呼気に漏れるかが調べられている。ライノとインフルエンザはある程度マスクを通り抜けるのに対し、コロナウイルスの場合は、驚くべきことに、droplet(直径5μm以上)のみならず、aerosol(直径5μm以下)にもウイルスは検出されなかったのだ。

2020年春の時点では、まだマスクの効果を疑う声が少なくなかった。ウイルスの大きさを考えると、N95でさえ不十分なのにサージカルマスク(不織布マスク)などで防げるはずがないという意見がそれなりにあったのだ(実は、僕自身もCOVID-19が流行しだした2020年の2月には診察室でさえマスクを着用していなかった)。この研究の登場で、サージカルマスクを適切に着用していれば他人に感染させる可能性が極めて低いことが分かったわけで、この論文は非常に価値があると思っている。

次に我々が必要な知識は「マスクの種類でどれくらいの差が出るか」だが、これが大きく報道され出したのは、今年頭くらいだろうか。2021年2月3日、東洋経済ONLINEが国立病院機構仙台医療センターの西村秀一先生の研究を取り上げ公開するなどにより、マスクの効果の違いが徐々に市民にも知られるようになったと思う。

ここで紹介されているグラフを見れば一目瞭然だ。0.3~0.5μmの粒子を各マスクがどれくらい除去できるかが示されており、N95とサージカルマスクであれば9割以上が除去できるのに対し、布マスクは2割未満、ポリウレタンにいたってはほとんどゼロだ。

とはいえ、当院にもポリウレタンマスクのみで堂々とやってくる患者が少なくない。布マスクと合わせると全体の2~3割といったところで、僕の阪急・阪神両百貨店での“フィールドワーク”の結果と大差はない。行く先々でマスクを交換する人はそう多くないだろうから当然といえば当然だが。

[注2]How to make a non-medical coronavirus face mask - no sewing required(https://www.theguardian.com/us-news/2020/may/11/make-non-medical-coronavirus-face-mask-no-sewing-required)

[注3]Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks(https://www.nature.com/articles/s41591-020-0843-2)