自分の腕を切り落として窮地を脱した男[ナショジオ]ありえない生還劇

ナショナルジオグラフィック日本版

「事実は小説よりも奇なり」といいますが、絶体絶命の危機から生還した実話も、すぐには信じられないようなエピソードばかりです。ナショナル ジオグラフィックが集めたそんな実話の中から、特に「ありえない生還劇」をご紹介します。

今回紹介するのは、百戦錬磨の熟達者であっても、ちょっとしたミスがきっかけで取り返しのつかない窮地に陥ってしまうという、映画『127時間』にもなった実話です。

舞台は米国ユタ州のひとけのない峡谷。ここを一人で訪れた登山家が、落石で腕を挟まれ、身動きがとれなくなります。5日間にわたり、脱水、空腹、幻覚に悩まされた末、岩から自由になるために彼が下した決断は、折りたたみ式ナイフで自分の右腕を切り落とすことでした――。

北米最高峰に向けた肩慣らしだった

キャニオンランズ国立公園は、風雨が長い歳月をかけて台地を深く削り取った峡谷が、台地の下をまるで血管のように広がる、荒涼とした場所だ。アーロン・ラルストンの今回の目的地は、この国立公園に数ある峡谷のひとつ、ブルージョン・キャニオン。彼にとっては北米最高峰マッキンリー挑戦に備えた、ちょっとした肩慣らしのつもりだった。

ラストンが一人で訪れた、米国ユタ州キャニオンランズ国立公園。Shutterstock (c) Doug Lemke

この時、ラルストンは27歳。コロラド州にある標高4300メートル以上の山55峰のうち、すでに49峰に登っており、しかもそのうち45峰は冬山の単独登頂だった。

一人で山登りに出かけるときは、家族や知人に行き先のルートを伝えるのが常識だが、このときラルストンはそれをしなかった。

2003年4月26日土曜日、ラルストンはホースシュー・キャニオンに車を止めた。そこからマウンテンバイクで24キロ走った後、歩いてブルージョン・キャニオンを踏破、さらに車まで戻ってくる予定だった。

ラルストンは簡単なクライミングのための荷造りをした。リュックに入れたのはブリトー2本、水1リットル、マルチツールの安物ナイフ、小型の救急セット、ビデオカメラ、デジタルカメラなど。服装はTシャツ、短パン、野球帽で、着替えはなかった。

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