『フードトラップ』は大手食品企業の陰謀を臭わせる場面から始まる。しかし、調査を進めるにつれて、私は大手加工食品メーカーによる陰謀を感じることが少なくなった。個々の企業は、可能な限り魅力的な商品を作って売ることを目指しており、そのために各社各様の強力なモチベーションを持っている。

新製品開発で業界の伝説的存在となっている科学者、ハワード・モスコウィッツ。彼は、炭酸飲料「ドクターペッパー」の新フレーバー開発の過程を詳しく話してくれた。原料配合がわずかずつ異なる何十ものサンプルを用意し、消費者を集めて試飲会を繰り返し、高等数学を駆使して、完璧な糖分量を見つけ出す。そのポイントにぴたりと合わせて製造すれば、飛ぶように売れる――彼はそれを「至福ポイント」と名付けた。
私は、本書執筆のための調査中に、機密扱いのさまざまな業界記録を入手した。そこには、食品メーカーが綿密な計算のうえで原材料に塩分、糖分、脂肪分を使いこなしている様子がありありと示されていた。
脳がカロリーを感じにくい奇跡のスナック菓子
ポテトチップなど塩味の利いたスナック類では、使われる用語までもが華々しく、また意味深長だ。ある科学者は、パフ状のコーンスナック「チートス」を「奇跡的な創造物」と評した。欲しくてたまらなくなるような特徴を何十も備えていて、そのひとつが「カロリー密度消失」という現象だという。チートスは口の中で溶ける。すると脳はカロリーが消え失せたと勘違いしてしまい、「おいマイケル、そろそろ食べすぎだよ」という信号を発しない。
こうした科学者たちは、加工食品に対する消費者の依存が高まってしまったことに対して、何らかの遺憾の念を表明した。この点では、業界側の言い分にも一理ある。1980年代以降、いつ、どこで、何を食べてもよいという風潮が、「一夜にして」と言えるほどのスピードで広まった。人々の気軽なスナック習慣は、大手食品企業にとって願ったりかなったりだった。