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テニスの大坂なおみ選手は言葉の面でも注目度が高い(写真はイメージ) =PIXTA

テニスの大坂なおみ選手は言葉の面でも注目度が高い(写真はイメージ) =PIXTA

言葉の操り手としての、プロテニスプレーヤー・大坂なおみ選手に注目している。もちろん、テニスのトップ選手なのだが、発言者としても卓越した才能を感じさせる。なぜ、彼女のメッセージは人の心を揺さぶるのだろう。これまでの発言をおさらいしながら、自分なりに考えてみたい。

日本経済新聞は大坂選手の寄稿を「This is Naomi」と題して掲載している。日本語で全文が読める貴重な素材なので、まずはそちらの最新記事から見ていく。先日の東京オリンピックで聖火の最終走者を務めた体験を振り返った文章だ。

「聖火ランナーに選ばれるだけでも驚きなのに、最終走者を任せてもらえたのだ! 異なる人種の両親を持つ私がこんな形で国を代表できるとは、日本にも新しい風が吹いている。」

大坂選手の発言に特別な重みをもたらしているのは、個人の思いだけに閉じていないところだ。上記の引用部分でも、前半は最終走者を任せてもらったことを個人的に感慨深く述べているが、続く部分ではパースペクティブ(視野)が日本全体に広がっている。自分に与えられた役割を通じて、日本の変化を浮き上がらせてみせた。個人と社会のわたりあいがシームレスなところは、大坂選手の発言がスポーツの枠を越えて広く受け止められている一因ともなっているだろう。

将棋の大局観ではないが、物事を語る際に目先のテーマや目的だけにフォーカスして発言してしまうと、了見の狭さや配慮の不足を聞き手に印象づけてしまいがちだ。ビジネスパーソンであれば、自社の利益だけを語るのではなく、取引先はもちろん、業界、社会全体にまで視野を広げて、言葉を選ぶことが求められる時代になりつつある。いまどき、SDGs(持続可能な開発目標)を無視した物言いは相手から誤解や反発を招きかねない。カメラのズームを切り替えるつもりで、自分の視界が縮こまっていないかを確かめつつ話す態度がワイドレンジでの発言につながるはずだ。

日経への寄稿第1回では、こうつづっている。タイトルは「3つの文化、融合したのが私」だ。

「我が一家が米国に戻ると、私にとってとてもつらい時期がやってきた。学校に行っても、私は英語が全く話せなかった。当時は日本語しか話せなかった。先生とも級友ともしばらく、コミュニケーションが全くといっていいほどとれない。幼い私にとって、これは深刻な問題だった。」

つらかった経験も包み隠さずに打ち明けている。その他のくだりでも好きなファッションの傾向や、日本語との距離感など、本人にしか語り得ない事柄に触れた。こうした積極的な自己開示は誤解を遠ざけ、親しみを呼び込む。何でも明かせばよいわけではなく、望ましい理解につながる要素のチョイスが肝心だ。彼女はその点でも目配りが利いている。

自己開示はおっくうなものだ。自分のプライベートを明かすのは、心の奥に他人を招き入れるようなところがあり、あまり親しくない間柄ではためらわれる。とりわけビジネスシーンではあくまでも企業対企業、上司対部下といった関係での付き合いであり、互いの私生活は本来、無関係といえる。

適度に「自分」を見せないと、いつまでも形式的な間柄を抜け出せない。手探りを重ねながらでも、趣味や経歴、出身地などの個人情報をやりとりしていかないと、心理的な距離が縮まりにくい。失敗談や苦労話は親しみを感じてもらいやすくする効果が大きい。読み手との関係性を深めるうえで、この大坂選手の文章が連載の第1回に選ばれている意味は小さくない。

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