『ナイツ・テイル』にしかない空気感と世界観

『ナイツ・テイル』という作品自体も、初演とは見え方が違ってくると思います。ジョンが少しずつ手直ししていて、最終的な形は僕にもまだ分かりません。特に直していたのがキャラクターをはっきりさせることで、例えば大勢の人が出ている場面で大事なことを言っている人がちゃんと立つように、周りの人の反応の仕方を細かく修正していくようなことです。物語がよりはっきりしてきたし、それが積み重なってエンディングがさらに感動的だったり、幸福感が増していたりするといいな、と思いつつ稽古を重ねています。
テーマも、僕は初演では女性の描き方が新しいと感じたのですが、3年たった今はちょっと違った時代になっていて、女性や男性を超えた価値観をみんなが持とうとしてるんじゃないかなと。今回の再演では、そこがどう描かれるのか、興味がありました。ギリシャ神話の時代の話なので、女はこう、男はこうあらねば、騎士はこう、王はこうしなければ、という価値観のなかで生きている人たちの物語です。特に女性が抑圧されていたり、しきたりに縛られていたので、初演ではそこに意識がいったのだと思いますが、今回はその先にもっと大きなテーマが広がっている感じがします。いろんな新しい価値観を自分たちでつくっていこうという話だと思うので、奥深さをあらためて感じています。
シェイクスピア劇としての面白さも『ナイツ・テイル』ならでは。セリフが直接的な表現ではなくて、比喩が多かったり、形容詞が多かったりするので、いろんな解釈ができます。例えば、言葉では「絶対にこうするんだ」と言っているけど、本心はすごく迷っているととれるような、詩的なセリフがたくさんあります。音楽やダンスが素晴らしいのはもちろんのこととして、さらに『ナイツ・テイル』にしかない空気感というのかな。大きな森の中に入り込んだようなセットも含めての独自の世界観が、今回の再演で確立されてきたと思います。
今回は9月の大阪、10月からの東京に加えて、11月中旬からは福岡で初上演となります。3カ月で計97公演の予定。新型コロナの感染対策には万全を期していますが、今の状況だと、全部を無事に上演できるほうが奇跡かもしれないとも考えてしまいます。僕たちも、もう1年以上コロナ禍の中でお芝居を続けているので、何が起きても動じないメンタルでいるとは思います。でも、状況は刻々と変わっているし、やはり命や健康が第一なので、それは常に忘れずにやりたいし、お客さまも気をつけて見に来ていただければと思います。無事に開幕できて、すてきな舞台をお届けできることを祈っています。

(日経BP/2970円・税込み)

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第100回は9月18日(土)の予定です。