海外で活動するために大切なこと

「よく、海外で活動するにはどうしたらいいかと聞かれますが、『へこたれない』は、私にとって大事な感情かもしれません。『打たれ強くなること』と『へこたれない気持ち』がないと難しいと思うからです。

たとえば、日本に留学や研修で来る外国人の皆さんは、日本語を学ぶためというより、日本でしか学べないものを身につけるために、日本語が必要だから一生懸命に学ぶ方が多いですよね。漠然とした海外への憧れだけでは、キャリアを続けるのは難しい。私の場合、どうしてもここでライブをしたい。今夜のステージを全うさせるんだという強い意志が支えになってきました。

あと、『日本とは圧倒的に違う』ことを受け入れるのも大事だと思います。日本では、仮に相手がミスをしても、お互いに謝ってから次に進むという文化だと思います。ですが、米国は非常に合理的なので、謝ることは『非を認めたこと』になる。楽器が届かなかったとき、反射的に『アイムソーリー』と言ってしまうと、『謝ったのだから、あなたのミスだ』となってしまう場合がある。そういうことをごまんと繰り返していくうちに、ちょっとやそっとでは、『へこたれなく』なっていきました(笑)。

もちろん、そう簡単に割り切れたわけではなく、渡米して7~8年たってようやく自分のなかで取り扱いマニュアルが完成に近づいた感じです。マニュアルをフルで使えるようになるまでには10年くらいかかりましたね。その間、ずいぶんへこたれました。でも、それでいいと思うんです。へこたれても、『続けたい』という強い意志があれば、道はひらかれるから。一足飛びにうまくいくなんてことはありません。だから、最後に必要なのは根性(笑)。今どきはやらないかもしれませんが、私には大事なことです。

まずは、発表されているライブ日程を全うしたいと願うばかりです。ライブができない日々が続いたとき、自分にとってライブは感情をリリースする場所であり、エネルギーの源なのだと改めて知りました。ステイホームは、いわば蓄電ばかりしている状態。感情のリリースができるライブがないとバランスを取るのが難しい。いまは、根性が試されているときかもしれませんね(笑)。

また、ブルーノート東京の『SAVE LIVE MUSIC』で、ライブが必要だと思ってくださる方々がいることを間近に感じ、勇気づけられました。ツアーでそうした皆さんに会いに行き、生の音楽を届けたい。強い意志を持って、へこたれずに音楽を鳴らし続けていきたいです。

おうち時間で、関わり方が変わったモノですか? 買ったままで宝の持ち腐れ状態だった『ストウブの鍋』ですね。これまで旅から旅への日々だったので、落ち着いて料理する時間がありませんでした。ですが、多くの方と同じようにステイホームが続き、自炊をする機会がぐっと増えて。煮物や豚汁などを作るときに火の通りが早く、すごく重宝しました」

「私は大根に目がないので、あらゆる調理法で大量に消費しています」
上原ひろみ(うえはら・ひろみ) 1979年生まれ、静岡県浜松市出身。6歳よりピアノを始め、同時にヤマハ音楽教室で作曲を学ぶ。17歳の時にチック・コリアと共演。2008年、チック・コリアとのアルバム『Duet』を発表。13年、米国で最も権威のあるジャズ専門誌「ダウンビート」の表紙に登場。16年4月、上原ひろみザ・トリオ・プロジェクト名義のアルバム『SPARK』が、全米ジャズ・チャートで1位を記録。20年8月からはコロナ禍で苦境にあるライブ業界の救済を目的にブルーノート東京にてシリーズ企画『SAVE LIVE MUSIC』を展開している。21年7月、東京オリンピックの開会式に出演し、演奏を披露した。

『シルヴァー・ライニング・スイート』

2年ぶりとなる新作は、ピアノ+弦楽四重奏の新プロジェクト「上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット」名義。コロナ禍のステイホーム期間中に書き下ろした 4パートから成る組曲「シルヴァー・ ライニング・スイート」を筆頭に、自身のSNS企画『One Minute Portrait』で発表した楽曲などを、新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサート・マスターである西江辰郎を中心とするストリング・カルテットと競演。弦楽器と語り合い、笑い合い、踊るように奏でるピアノの躍動感に心励まされる。

(文 橘川有子、写真 藤本和史)

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