セガの家庭用プラネタリウム 新作は星の瞬きも再現
セガトイズのホームスターは、家庭用プラネタリウムのシリーズ商品。1等星から8等星まで6万個の星が表現された満天の星を、直径15センチメートルほどのコンパクトな円形の本体から部屋の天井に投影する。それまでの簡易的なピンホール式の家庭用プラネタリウムに対し、業務用のプラネタリウムに使われる光学式を、世界で初めて家庭用に取り入れた。
2020年はステイホームによって、シリーズ16年目にして絶頂期を迎えた。起爆剤となったのが、自宅でテントを設営してキャンプ気分を味わう「おうちキャンプ」をする人が増えたこと。その際、併せてホームスターを使って天井に夜空を投影することで、夜の野営キャンプ気分が増すと話題に。19年の販売6万台強に対して、20年は同11万台超と、販売台数が前年比190%を記録した。
そんな中、21年8月12日に発売したのが、「Homestar」だ。第1弾と同じ商品名で、2文字目の「o」以降が小文字になっている。2カ月間の予約販売だけで予約台数が2000台に迫り、予約金額は2000万円を超えるなど、発売前から早速注目の的になっている。
「自宅でアウトドア」を再現する2つの機能とは
最大の特徴は、おうちキャンプで人々の心を捉えた、「家にいながらアウトドア気分に浸れる」魅力をさらに追求したことだ。
そのためにシリーズ標準機で初搭載した機能が2つある。1つ目が、「音」を取り入れたこと。海で見ているシーンなら潮騒、川沿いならせせらぎ、山なら虫の鳴き声といったように、投影と同時に本体からシーンに沿った音が再生される。音量は調整可能だ。
2つ目が、家庭用プラネタリウムでは日本初という「星の瞬き」まで再現したこと。一般的な家庭用製品では星はずっと光った状態で投影されるが、実際の夜空を意識して見上げてみると、星は瞬いて見えることが分かる。これを通常は1枚の原板に、揺らめきを再現する「影」の役割を果たす2枚目の原板を組み合わせることで再現した。加えて、従来品から星の数を減らしてまで、プラネタリウムの「フィクション」の空ではなく、「リアル」な夜空の再現を徹底した。
デモ機を体験したところ、繊細さを追求した機能により、夜空の再現性は増していると感じた。瞬きは実際の星のように絶え間なく揺らめいて見えるとまではいかないが、星が消えてはまた現れたり、光の強さが微妙に変わっていったりする。飽きずに見ていられて、夜空に引き込まれていくようだった。こうした没入感があるので、音もBGMとして自然に感じられ、本当に海辺や川辺にいるような感覚になった。
「ホームスター」シリーズを担当する、セガトイズ 国内マーケティング企画本部の富山桂行氏は、「デモ機を一緒に体験した子供は『ベッドに寝そべって見上げるのではなく、床にシートを敷いて見たい』と言っていた。『おうちキャンプ』で使えば、アウトドア気分をより楽しんでもらえる」と説明する。
16年目でブランド再定義に踏み切る
なぜ絶好調の今、ブランドリニューアルの大勝負に出たのか。シリーズの足跡を振り返ると、その理由が分かる。
第1弾商品のHOMESTARは光学式を採用したため、それまで主流だったピンホール式の家庭用プラネタリウムの倍以上となる約2万円。セガトイズ社内でも「売れるのか」と懐疑的な声が大半だったという中、「家庭で本格的な夜空が見られる」と天文愛好家が飛びついたことも追い風に、初年度10万台のヒットを記録した。
その後、10年に風呂でもプラネタリウムを楽しめる防滴仕様の「HOMESTAR AQUA」、11年には映画『スター・ウォーズ』の人気キャラクターとコラボした「HOMESTAR R2-D2」を続けて発売。ホームスター商品が雑貨店などでも広く扱われるようになった。13年には、従来と遜色ないクオリティーを維持しながら、素材を見直すなどして従来の半額以下となる1万円台の価格を実現した「HOMESTAR Classic」を発売。富山氏は、「試行錯誤を繰り返して低価格を実現したこの商品がヒットしたことで、シリーズが今に続いた」と振り返る。
このように、商品が堅調に売れている現状にもあぐらをかかず、ラインアップの拡充やリニューアルを繰り返したことで、販路や購買層を広げてきた。今回発売するHomestarも、そうした信念の先にあるものだ。
後にHomestarとなるシリーズ新商品開発の構想が持ち上がったのは、コロナ禍になる以前の2年ほど前。シリーズ発足から15年近く売れ続け、多くの人に手に取ってもらった半面、「シリーズを成長させ続けるために、『誰にどうマーケティングすべきなのか。ターゲットが曖昧になり、戦略が立てづらくなりつつある』という課題を感じていた」(富山氏)。
そこで、「すべてのファミリーや若い人たちをターゲットにする」を前提に、それまで「ホームスター」シリーズを買ってくれた人たちにもまた買いたいと思ってもらえる商品にすることと、『天文の堅いイメージを打破する』ことをコンセプトに据えた。そして開発を進める中、ステイホームでおうちキャンプと一緒に使う人が増えたことを受けて、「インドアをアウトドアにする」ことをテーマに加え、完成したのがHomestarだ。16年目の大勝負がどう出るか、注目だ。
(日経トレンディ 高田悠太郎、写真 SEGATOYS)
[日経トレンディ2021年10月号の記事を再構]
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