PMF第25回で「アリアドネ」北海道初演 沼尻竜典がさえた指揮

2014/8/11

音楽レビュー

指揮は沼尻竜典(PMF組織委員会提供)

今年はドイツの大作曲家、リヒャルト・シュトラウス(1864~1949年)の生誕150年に当たるが、最も重要なオペラの上演が日本ではあまりにも少ない。その乾きを癒やすかのように札幌の国際教育音楽祭、パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)が第25回の「アニバーサリープログラム」としてシュトラウスの傑作オペラ、「ナクソス島のアリアドネ」の北海道初演に沼尻竜典の指揮で挑み、目覚ましい成果を上げた。

「アリアドネ」はシュトラウスとウィーンの文豪、フーゴー・フォン・ホフマンスタール(1874~1929年)の共同作業の中で最も難産とされたオペラ。モリエールの戯曲「町人貴族」のドイツ語版と、イタリア古典喜劇(コンメディア・デッラルテ)とギリシャ悲劇が入り乱れる1幕物のオペラを一晩で上演しようと考えたホフマンスタールが台本を書き、シュトラウスは激しい論争の末に楽曲を完成、1912年にシュツットガルトで世界初演した。だが演劇と歌劇の混在は上演が煩雑なため、前半もオペラ歌手が演じるプロローグに改め、4年後にウィーンで初演したのが現行版。北海道初演もウィーン版を採用した。

指揮者には当初、PMFのレジデントコンダクターを1998~2004年に務めた台北出身のチェン・ウェンピンを予定していたがキャンセル、ドイツのリューベック歌劇場音楽総監督と滋賀県立びわ湖ホール芸術監督を兼ねる沼尻に代わった。沼尻は国内でも「ばらの騎士」「サロメ」などの舞台上演を手がけ、シュトラウス歌劇の解釈には定評がある。

さらにPMF組織委員会理事を務める北海道出身のバリトン歌手、木村俊光(桐朋学園大学音楽学部教授)が構成・公演監督に入ったことが、上演の質を高めた。木村はデュッセルドルフ、デュースブルクの2都市を本拠とするライン・ドイツ・オペラ専属だった時代、「アリアドネ」で2つの異なる役を演じた経験があった。さらに今年3月末まで新国立劇場オペラ研修所の所長を務めた縁で、同研修所出身の新鮮な歌手を多数起用した。

音楽教師の駒田敏章(バリトン)、作曲家の塩崎めぐみ(メゾソプラノ)、士官とスカラムッチョの伊藤達人(テノール)、舞踏教師の日浦眞矩(テノール)、ハルレキンの村松恒矢(バリトン)、ナヤーデの九嶋香奈枝(ソプラノ)、ドゥリアーデの林よう子(ソプラノ)、エコーの今野沙知恵(ソプラノ)と、研修所修了者は8人を数え、舞台全体に若々しい躍動を与えた。

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