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音楽レビュー

2014/8/11

音楽レビュー

演奏会形式に多少のステージング(三浦安浩)を加えたPMFの「ナクソス島のアリアドネ」(7月18・20日、札幌コンサートホール)=PMF組織委員会提供

オペラ全体をけん引する主役トリオはプリマドンナとアリアドネに大村博美(ソプラノ)、ツェルビネッタに天羽明恵(同)、テノール歌手とバッカスに水口聡(テノール)。いまを盛りに、世界各地の舞台で活躍する中堅のスター歌手が強じんな声と存在感、歌詞の内容を深く把握した味わいのある歌唱で客席の耳目をひき付けた。かつら師とトゥルファルディンを演じた大塚博章は東京二期会のバスながら北海道出身で、故郷に錦を飾った。

語り役の執事長こそドイツ人のヨズア・バルチュが担ったが、歌い手全員が日本人のアンサンブルでこれほどまで高水準の「アリアドネ」を北海道初演できるとは、誰もが予想しなかったはずだ。通好みの演目で満席とはいかなくとも、客席の熱狂はすごかった。これなら中途半端なステージングや映像、照明は「なくても良かった」との声も出た。

PMFは1990年、余命いくばくもなかった米国の巨匠指揮者で作曲家のレナード・バーンスタインが「残る時間を若い音楽家の育成にささげよう」との願いをこめ、札幌に創設した。バーンスタインは米国のタングルウッド音楽祭、ドイツのシュレスウィヒ・ホルスタイン音楽祭と米欧の教育音楽祭に深く関わってきた。「アジアにも拠点を」との思いから当初は北京で計画したが、天安門事件を受け札幌に変更した。国際教育音楽祭とは音楽学生のオーディションを世界の主要都市で開き重ね、最終的に選ばれた120人あまりのメンバーが1カ所に集まってオーケストラを組織、著名な指揮者や奏者の指導を受ける。

PMFではオーケストラのメンバーを「アカデミー生」と呼ぶ。学生ではあってもアマチュアとは一線を画す、若いプロフェッショナルたちに与えられた特別な名称だ。今年は26カ国の122人が参加した。過去25年では70カ国、3千人を超え、多くが一流オーケストラのコンサートマスターや首席奏者、音楽大学の教授に就いている。

とりわけオペラのオーケストラで演奏することは絶えず舞台の進行や、歌手の息づかいに注意を払うので、単なるコンサート以上の教育効果を発揮する。過去にも「コジ・ファン・トゥッテ」(モーツァルト)や「エフゲニー・オネーギン」(チャイコフスキー)、「ラ・ボエーム」(プッチーニ)などが数年に一度のペースで取り上げられた。オペラ公演の少ない札幌では、聴衆のメリットも大きい。だが小編成でシュトラウス&ホフマンスタールの世界を描き尽くす「アリアドネ」のオーケストラの難易度は、けた外れに高い。

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