女性上司から「そろそろ結婚したら」はセクハラ?
上司は心配しているようだが……
今年30歳を迎えるA子さん。入社して5年が過ぎ、仕事もかなり信頼して任されるようになってきました。給与も仕事内容も、それなりに満足しているものの、ひとつだけA子さんを憂鬱にさせる出来事があります。
それは、女性の上司が「そろそろ結婚したら? 子どもだってほしいでしょう?」と、職場で声をかけてくること。その上司は、同郷の出身で、年齢もA子さんの親と近いことから、どうもA子さんのことが心配な様子。
「特に予定はありません」と答えると、「それじゃ、親御さんだって心配よ」と困った顔をされ、それがまたストレスに感じます。
顔を合わせるたびに「そろそろ……」と言われると、結婚をしない自分のままではいけないのだろうか? と、不完全な人間のように思えて、気持ちがだんだんとブルーになってくるのでした。
もし、あなたがA子さんだったら、どのようなアクションを取りますか? そのまま、我慢し続けますか?
同性上司の心配発言でも当事者が不快になれば、セクハラの可能性
たとえ心配してA子さんに言っていたとしても、そうした上司の発言はセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)にあたる可能性があります。
セクハラとは、簡単にいうと、相手の意に反する性的な嫌がらせをいいます。たとえば、男性上司が女性部下の意に反して、身体を不必要に触ったり、デートへ執拗に誘ったりする行動は、明らかなセクハラにあたります。
しかし、A子さんのケースように、言葉だけによる、しかも同性同士によるセクハラもあり得るのです。2014年7月より、男女雇用機会均等法の指針が改正され、職場におけるセクハラには、同性に対するものも含まれることが明示されました。
性的な言動があっても、その感じ方は、男女によっても、また個人によっても様々。セクハラでは、受け手の感じ方が尊重されます。
だからこそ、A子さんの上司のように、決して嫌がらせのつもりでなくとも、何気ない発言が繰り返されることで、相手の心を深く傷つけ、セクハラになることがあるのです。
増加するプチセクハラ、いやな思いは一人で抱えず相談を
近年、性的な言動が繰り返されることでセクハラとなり得る、プチセクハラのご相談を受ける機会が増えています。たとえば、
・ 水着アイドルのスクリーンセイバーが、仕事中に不快でたまらない。
・ 上司から頻繁に食事に誘われ困っているが、断っているつもりでも上司には通じていない。
など、本人に悪気がなくとも、知らず知らずのうちにセクハラが職場に蔓延しているケースは珍しくありません。
A子さんは、この状況を「セクハラ」と認識していないようでした。しかし、こうした性的な言動が繰り返されることで、気分が落ち込み仕事へのやる気も削がれ、職場環境が悪化しているようなら、環境型セクハラといえます。
嫌な思いを一人で抱え込まず、「やめてください。それはセクハラです」と、率直に伝えてみましょう。とはいっても、上司を目の前にして、なかなかそれは言いにくい……という場合もあるかもしれません。そのときは、職場のセクハラ相談窓口に相談してみてください。
もし、職場にセクハラ相談窓口がない場合は、人事や総務部に相談してみましょう。男女雇用機会均等法では、セクハラに関して雇用管理上の措置を講ずることを事業主に義務付けており、セクハラの相談・苦情の窓口を明確にして、迅速に対応することを求めています。
今回の改正で、直ちにセクハラに該当しないとしても、その状況を放置しておけばセクハラとなり得る場合については、相談対応の対象に含まれることが明示されました。こうした根拠を伝え、広く相談に応じてもらえるよう働きかけることもひとつです。
A子さんが声を上げることで、職場全体の意識啓発につながり、働きやすい職場に変わる、きっかけとなるかもしれません。
社会保険労務士。米国企業日本法人を退職後、社会保険労務士事務所等に勤務。平成17年3月、グレース・パートナーズ社労士事務所を開設し、現在に至る。女性の雇用問題に力を注ぎ、【働く女性のためのグレース・プロジェクト】でサロンを主宰。著書に「知らないともらえないお金の話」(実業之日本社)をはじめ、新聞・雑誌、ラジオ等多方面で活躍。
[nikkei WOMAN Online 2014年5月20日付記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。