日経ナショナル ジオグラフィック社

2021/9/20

アラリペ盆地はかつて塩水のラグーンだったが、現在は陸地となって緑に覆われている。その石灰岩の層には保存状態の良い化石が数多く含まれており、「本を開くように石を開くと、ページの中に化石が入っています」と、論文著者の一人であるブラジル、パンパ連邦大学サンガブリエル校の古生物学者フェリペ・リマ・ピニェイロ氏は語る。

110種以上が知られている翼竜のうち、27種がこの地域で発見されている。タペヤラ科は最も多様で豊富なグループの一つであり、中でもトゥパンダクティルス属の種はすべて、特大サイズの派手なとさかを持つ。

ABC連邦大学サントアンドレ校の大学院で古生物学の研究を行うロドリゴ・バーガス・ペガス氏は第三者の立場で、「ほぼ完全なこの化石は非常に重要な発見です」と評価する。「ブラジルの古生物学にとって大きなニュースです」

新たに発見された化石を調べた結果、この翼竜は頭部に巨大なとさかがあるため、短距離しか飛行できなかった可能性が高いと判明した(ILLUSTRATION BY VICTOR BECCARI)

巨大なとさかの謎

14年、トゥパンダクティルス・ナビガンスの標本がサンパウロ大学にやって来たとき、その骨格はベージュの石灰岩の板6枚に埋め込まれていた。今回の論文の筆頭著者である大学院生のビクター・ベッカリ氏が最初に気付いたのは、翼竜のとさかが頭骨の4分の3近くを占めていることだった。「体の大きさに対してあまりに巨大です」

03年にトゥパンダクティルス・ナビガンスを記載した科学者たちは、頭骨のとさかが帆に似ていることから、飛行を助ける推進システムではないかと考えた。そのため、首が短くて頸椎がしっかり固定されている生き物を想像した。

全身の骨格を手に入れたベッカリ氏らは、この生き物が飛行に適しているかどうかを調べることができた。研究チームはCTスキャナーで古代の骨にX線を照射し、骨格の3次元モデルを作成した。

その結果、トゥパンダクティルス・ナビガンスは長い首、長い脚、そして、比較的短い翼を持っていたことがわかった。これは飛行より歩行が得意だったことを示唆している。大げさなとさかはおそらく、求愛行動に使う装飾であり、飛行はむしろ短距離に制限され、捕食者から逃げるくらいしかできなかったと推測される。

しかし、このとさかにはもう一つの謎があり、研究チームはさらなる手掛かりを探し求めている。タペヤラ科の仲間であるトゥパンダクティルス・インペラトル(Tupandactylus imperator)との関係だ。トゥパンダクティルス・インペラトルは4つの頭骨が発見されており、トゥパンダクティルス・ナビガンスよりさらに大きなとさかを持つが、頭の形がよく似ているため、両者は別の種ではなく、同じ種のオスとメスではないかとも考えられている。

「これは直感ですが」とピニェイロ氏は前置きし、「インペラトルの完全な骨格が見つかれば助けになるでしょう」と述べた。アラリペ盆地の石灰岩からタペヤラ科の骨がさらに見つかり、謎に包まれたこの翼竜の生態が明らかになるかもしれない。

警察による強制捜査のおかげで、科学者だけでなく一般市民もトゥパンダクティルス・ナビガンスを見ることができるようになった。その驚くべき骨格は17年からサンパウロの地球科学博物館に展示されている。

(文 PRIYANKA RUNWAL、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年8月27日付]