ケナガマンモスの一生 最新技術でここまでわかった!

2021/9/17
ナショナルジオグラフィック日本版

縦に割られたマンモスの牙(手前)。米アラスカ大学フェアバンクス校のアラスカ安定同位体分析施設(ASIF)にて。後ろでは研究員のカレン・スパレータ氏が分析の準備をしている。この結果によりケナガマンモス「キック」の全生活史が明らかになった(PHOTOGRAPH BY JR ANCHETA UNIVERSITY OF ALASKA FAIRBANKS)

マンモスの牙には、旅や食事、死の様子まで、その生涯の物語が刻まれている。牙は歯茎の下から生え、生涯にわたって伸び続ける。「牙の先端は若いときに、根元は晩年に形成されたものです。その間のすべての部分がマンモスの一生の記録です」と米アラスカ大学フェアバンクス校の生態学者マシュー・ウラー氏は話す。

とはいえ、実際に牙を調べて生涯の物語を解釈するのは非常に難しいのだが、ウラー氏が率いる研究グループは今回、それをやってのけた。氏らが2021年8月13日付で学術誌「サイエンス」に発表した論文では、約1万7000年前に生きた1頭のケナガマンモス(Mammuthus primigenius)の28年にわたる生活史を、最先端のツールと技術を駆使して詳しく解き明かしている。

巨大な牙を割る

18年の夏、筆者はアラスカ大学のウラー氏を訪ね、実験室を見せてもらった。部屋の中央にある黒い実験台の上には、長さ1.7メートルのマンモスの牙が置かれている。緩やかならせん状で、筆者の腕よりも太い。牙は真ん中で縦に割られていて、長くねじれたホットドッグ用バンズのようだった。

ウラー氏の説明によると、マンモスの牙が成長する際、内側にはアイスクリームのコーンを重ねたような鮮明な層ができるが、牙の外側では層の境界が乱れるという。そのため、牙の化学的記録の全体像を把握するには、牙の中心部のサンプルが必要だ。このプロジェクトの最初の難関は、重さ20キログラム以上のねじれた牙を帯鋸(おびのこ)で切ることだった。「刃が何枚も折れました」と氏は言う。

牙を割ったら、中心部から長さ5センチほどのくさび形のサンプルを切り出し、研究室の片側を占める機械に投入する。レーザーを使って牙の小さな破片を蒸発させ、どのような化学物質が含まれているかを調べる「レーザーアブレーション・マルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-MC-ICP-MS)」という装置だ。

総力をあげて牙を分析

研究の要点となるのは、ストロンチウムという元素の同位体だ。

マンモスが植物を食べると、植物に含まれるストロンチウムが体内に取り込まれる。植物は地中の岩石からストロンチウムを吸収し、場所ごとにストロンチウムの同位体比が異なっている。

マンモスはその土地の植物を食べながら移動し、各地のストロンチウムが整然と牙に蓄積するため、牙の各部分のストロンチウム同位体比には、マンモスの旅路が正確に記録されていることになる。そのため牙は「化学的なGPS(全地球測位システム)のようです」とウラー氏は言う。

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