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適温0℃氷河のミミズ 謎の生態解明に温暖化の影

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ナショナルジオグラフィック日本版

氷河は一見、生命のいない不毛な氷の塊だ。しかし、目に映るものがすべてではない。氷河には多数の小さな生物が暮らし、豊かな生態系を形づくっている。

コオリミミズ(Mesenchytraeus solifugus)は、北米大陸西部の氷河で最も目立つ生物だ。体長は1センチを上回る程度で、デンタルフロスくらい細く、米国の太平洋岸北西部、カナダのブリティッシュ・コロンビア州、米国アラスカ州の氷河に点在する。

この小さな黒いミミズは夏の午後から夜にかけて氷上に大量に現れ、藻類や微生物などを食べる。そして、夜明けとともに氷の中に潜り、冬が来ると氷の奥深くに姿を消す。

ミミズの遠い仲間であるコオリミミズは、雪や氷の中の冷たい水の層で生きている。適温は水が凍る0℃付近だ。これはほとんどの生物、特に体温調節能力を持たないミミズのような変温動物には不可能なことだ。

コオリミミズはどのようにこの離れ業を演じているのだろう? 科学者たちはコオリミミズのトリックをいくつか発見した。そして、この奇妙な生き物を理解することは極めて重要であり、しかも、緊急の課題であると述べている。

コオリミミズがどのように過酷な環境に耐えているかを知ることは、地球上、そして地球外の生命の限界を理解する助けになると、25年にわたってコオリミミズを研究している米ラトガーズ大学のダニエル・シェイン氏は話す。

しかし、氷河が消えていくと同時に、コオリミミズも消えていく。「コオリミミズがいなくなる前に、できる限りのことを知りたいと思っています」と、米ペンシルベニア州にあるハバフォード大学の生物学者シャーリー・ラング氏は語る。氷河が現在のペースで解け続ければ、「彼らはほぼ間違いなく、いずれいなくなるでしょう」

寒くなると元気になる不思議

生物学の法則では、温度が下がると、生理的な反応が遅くなり、エネルギーレベルが低下する。恒温動物はエネルギーを消費することで、体温を一定に保っているが、変温動物は寒くなると不活発になり、休眠状態に入る。しかし、コオリミミズは違う。

「彼らの場合、寒くなるとむしろエネルギーレベルが高まります」とシェイン氏は説明する。「これは一種のパラドックスです」

シェイン氏と、氏の研究室で博士号を取得したラング氏は一連の論文でその理由を説明している。すべてに関係しているのが「アデノシン三リン酸(ATP)」という特殊な分子だ。ATPは細胞内でエネルギーの通貨として働き、体内の反応の大部分を支えている。

ATPはATP合成酵素という複雑な酵素を使って合成されるが、この酵素は既知のすべての生物にほぼ共通している。ATP合成酵素は100%に近い効率で仕事をこなす。こんな発明は人間には不可能だ。生化学者たちは畏怖の念を抱いており、シェイン氏は「驚異的なマシン」と表現する。

コオリミミズはATP合成酵素をつくるDNAに細工を施し、このマシンによるATPの合成を速めているらしい。「ターボのようなものです」とシェイン氏は語る。 

 シェイン氏によれば、合成を速めるこの進化を説明するのは難しいが、高地の菌類に見られる遺伝物質を盗み取った可能性があるという。これは遺伝子の「水平伝播(でんぱ)」と呼ばれる。もしそうであれば、極めて異例だ。他生物から取り入れたDNAは通常、ATPを合成する場所であるミトコンドリアに組み込まれることはない。

遺伝子の追加に加えて、コオリミミズは細胞の「サーモスタット」にも改造を施しており、寒いときもATPを合成できるようになっている。この2つの変化によって、コオリミミズの細胞のATP濃度は他の生物よりはるかに高くなっている。これらが、凍えるような寒さの中でもコオリミミズがエネルギーレベルを維持している説明になる。

エネルギーレベルの高さについて、ラング氏は別の仮説を探ろうとしている。コオリミミズにはメラニンがぎっしり詰まっている。人の皮膚を紫外線から守っているあの色素だ。

コオリミミズでは、脳から消化管、筋肉に至るまで、全身にメラニンが存在する。植物の光合成で葉緑素がやっているように、メラニンは特定の状況下で太陽光のエネルギーを吸収し、化学的なエネルギーに変換できると示唆する研究結果もある。ラング氏は、これがコオリミミズに起きているのではないかと考え、この仮説を検証してみたいと望んでいる。

コオリミミズは沿岸部の氷河のみに生息し、世界の他の場所では見つかっていないが、チベットには別のよく似た種が存在する。この種についてはほとんど何も知られていない。コオリミミズはセ氏0度で繁栄するが、それより大幅に低い温度には耐えられない。

氷河の生態系

コオリミミズは驚異的なエネルギーの持ち主であるだけでなく、私たちがほとんど知らない生態系の一部でもある。米ワシントン州立大学の生物学者スコット・ホタリング氏によれば、コオリミミズはワムシ、クマムシ、藻類、菌類などの微生物と共生しているという。また、鳥の餌でもある。

ホタリング氏らはコオリミミズを食べる鳥を少なくとも5種確認している。レーニア山のような場所では重要な食料源になっており、ハギマシコ属(ロージーフィンチ)はコオリミミズを大量に食べ、ひなに与えているとホタリング氏は話す。

鳥たちはまた、コオリミミズが氷河から氷河へと分散できることの説明になるかもしれない。シェイン氏によれば、コオリミミズは生息地ごとに遺伝的に異なり、アラスカ州のコオリミミズは米太平洋岸北西部のコオリミミズの多くとは違う種である可能性が高いという。

生きたコオリミミズは鳥の羽毛や足に付着して運ばれるか、生きたまま鳥の消化管を通過しうることをホタリング氏の研究は示唆している。例えば、カナダ、バンクーバー島のある個体群は、アラスカ州南部の個体群と密接な関係にある。つまり、遠くない過去に1匹または複数の個体が鳥によって運ばれた可能性があるということだ。

しかし、コオリミミズの謎を解き明かすための時間はあまり残されていない。ワシントン州ノースカスケード国立公園のライオル氷河やルイス氷河など、いくつかの氷河はすでに消えてしまった。他の氷河も縮小している。コオリミミズの生息地であるレーニア山南面のニスカリー氷河は2003~15年にかけて、10日ごとに平均約1メートルずつ後退していたことがわかっている。

進化遺伝学者のジョアンナ・ケリー氏とホタリング氏はコオリミミズのゲノム配列を解析しているが、作業は困難を極めている。大量のメラニンがDNAに付着し、解析の妨げになっていることが一因だ。

手遅れになる前に他の秘密も明らかにできることを2人は願っている。「研究を急がなければならないと感じています」とホタリング氏は述べている。

(文 DOUGLAS MAIN、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2021年8月22日付]

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