仏ダノン会長解任 ESG経営の落とし穴

伊藤邦雄・一橋大学CFO教育研究センター長

伊藤 環境に優しい商品は最終的には消費者に必ず浸透してゆくと思います。だからといってその分を価格に転嫁すると、売れなくなる懸念がある。経営陣は難しい選択を迫られます。

沢田 難しいことが多いですが、常に半歩、一歩先の商品を提供していく必要があります。取締役会のメンバーとも十分な情報共有して、ESG経営を追求していかないといけないと思います。

伊藤 ESGは聞こえがいい。「我々は環境や社会にいいことやっているから認めてよ」と考えていると落とし穴にはまる。21年3月に仏食品大手ダノン会長兼最高経営責任者(CEO)のエマニュエル・ファベール氏が突如解任されました。ESG経営の推進者として知られていたが、ここ3~4年は業績がさえなかった。株主に理解してもらうのは大変ですね。

沢田 大変ショックな出来事だった。やはりIRが大事だと思います。ESG経営の重要性をしっかり株主に説明し、対話することが不可欠です。

明治が中計にROESG盛り込む

伊藤 グローバル競争で生き残るにはもうけなくてはいけない。しかし、直近の業績に重点を置く今の会計システムは少しおかしいと感じています。将来的に企業の社会的価値を上げるESGという要素は反映させた方がいいと考えています。

沢田 確かにそうあるべきですが、それに甘えてはダメでしょうね。ESGで「トリプルA」の評価をもらっても利益が下がってはいけない。ある一定の数字の線引きは必要だと思っています。そうしなければ、配当も払えないし、そもそも従業員を雇えない。

伊藤 確かに良質なROEとESGを両立させ、どのように担保するのか、課題は少なくない。私はこの財務的指標と非財務的指標を統合する必要があると考えています。損益計算書で示される「会計的利益」と当期純利益から資本コストを控除した「経済的利益」の財務的指標に、「社会的利益」を表すESGスコアと「持続可能性利益」を示すROESGという非財務的指標を加えるのです。この4種類の指標でボトムラインを引くと、新しい企業価値が見えてくるのではないでしょうか。実は明治ホールディングスは新中期経営計画で、ROESGを盛り込むことを表明しました。

沢田 明治は優れた企業ですね。我々もESG活動と利益創出の両立を目指してやってきました。工場では製造時に二酸化炭素を排出しますが、10年前から生産現場で、「インターナルカーボンプライシング(ICP)」と呼ぶ企業が独自に炭素に価格付けする取り組みを実施、20万トン以上の削減を実現しています。ESGは常に半歩先を行かないといけないし、収益につなげるのには時間がかかります。

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