ロースターと客を橋渡しするバリスタ
バリスタが屋台骨を支える別の店が、カケルの前段にある。2017年に東京・表参道に開いた豆売り特化の「KOFFEE MAMEYA(コーヒーマメヤ)」。国内外の著名なロースターから豆を調達し、単一農園のシングルオリジンや独自のブレンドで販売する、いわばセレクトショップだ。
小さなカウンターをはさんでバリスタがお客と対峙して、好みを聞き、当日扱う豆のプロフィルを説明する。購入した豆には、1杯あたりの最適な豆とお湯の量、抽出時間などを記したレシピを添える。鍛え抜いた抽出とカウンセリングの技術を生かして「バリスタが、バリスタとして豆を売る方法」を模索した末に考案したスタイルだ。バリスタはロースターとお客の橋渡し役に徹する。
コンセプトは「家のコーヒーをもっとおいしくする」。良質の豆は増えたが「おいしい飲み方、ちゃんとした淹れ方を知りたい、というお客様はまだ多い。でもロースターの壁を越えた中立的な立場でお客様に助言する存在が、この業界から抜け落ちていたんです」。
両店を貫くのは「バリスタの力を生かし切る」というポリシーだ。同時に、その斬新な運営スタイルは、消費者の潜在ニーズをしっかり捉えてもいる。「根本的には何事もお客様目線で考えます」と國友さんはきっぱりと言う。
「お客様目線」を肝に銘じるようになったきっかけがある。イタリアでバリスタ修行した後の03年、大阪にイタリアン・バールを開業した。本場のスタイルを忠実に再現したが、なかなか軌道に乗らなかった。「日本では日本のお客様が喜ぶ形に昇華させないと商売にはならない」。そんな反省を胸に09年、開業に携わったのが東京・表参道の「パンとエスプレッソと」だ。購買頻度の高いパンとコーヒーを組み合わせた“日本型バール”は成功を収めた。
続いて11年に開業したのが「OMOTESANDO KOFFEE(表参道コーヒー)」。普及途上のスペシャルティコーヒーを手軽に飲める、当時はまだ珍しい持ち帰り主体のコーヒースタンドだった。古い日本家屋の内部にキューブ型のスタンドを配置するユニークな構えが話題を呼び、1年間限定のはずだった営業が15年まで続いた。ちなみに店名が「COFFEE」でなく「KOFFEE」であるのは、売店「KIOSK」のKに由来する。
エッジの効いたこの店も「いいコーヒーを手軽に飲むスタイルは必ず浸透する」という、肌で感じた潮流の変化をカタチにしたものだった。
「根本はお客様目線でも、オリジナリティーは大事にしています。ビジネスとしての成立と“ひとりよがり”とのバランスにはすごく注意している。そこは自分のセンスを信じるしかない」
人口減の影響は避けられないが、それでもスペシャルティコーヒーの市場は工夫次第で伸びる余地が大いにある、と國友さんは確信している。今までにない、潜在ニーズを刺激するアプローチを探し続ければ、活路は開けるとみる。
カケルが世に問うグルメスタイルは、他社も導入する動きがある。競合は激しくなるが、消費者の認知が広がれば市場全体の成長余地は拡大する。それこそ望むところだという。大事なことは、さらにその先へと、どこよりも早く歩を進めることだ。すでに國友さんの頭の中には、次の新業態の絵が描かれている。=おわり(名出晃)