日経エンタテインメント!

「これは決して悲観ではありません。彼らの根本的なクオリティーの高さは感じていたので、これなら1カ月の合宿で音楽漬けの生活を送れば、十分なんとでもなるという確信もありました。実は合宿審査では、歌やダンス、ラップなどのパートごとの審査をする選択肢もあったのですが、“一部特化パート型”を作ることをやめて、様々な可能性を参加者たちと一緒に探していくことを選びました。

彼らの中に、本人も無自覚な形の才能が眠っているのを感じたからです。ダンス初心者のメンバーも普通にダンスがうまくなっていたし、合宿に参加した15人中10人以上が希望パートの1つに『ラップ』を挙げ、いざ(歌ったのを)聴いてみたらみんなうまかったり。とにかく歌・ダンス・ラップというパート別の育成はふさわしくない状態でした。

個々のスキルはそれぞれに適したアドバイスをすれば伸ばしていける。それよりも、グループとして個々のメンバーに通底させたいこと――“音楽との距離感の近さ”や“音楽のために技術を使って表現する力”など――を育てていく『クリエイティブ審査』の方向に舵を切ったわけです。結果、彼らのアーティストとしての土壌を耕す審査になったと思います」

技術よりも重視した「プロとしての覚悟」

「2つ目の『擬似プロ審査』では、『クリエイティブ審査』でさらに明確になった課題の克服と同時に、“プロ”としてデビューする覚悟を育てることに重点を置きました。当時はまだ番組の放送なども始まっているかどうかの時期で、彼らの環境はほとんどオーディション参加前と変わっていなかったわけです。

でも、数カ月後には世の中に出て、CDショップでも配信でも、プロアーティストたちと同じ棚に並ぶ時期がすぐに来てしまう。そのことをしっかり認識してほしかった。個別の課題は明確とは言え、そういった技術よりも大事だったのが心持ち。気持ちのうえで何が足りていて何が足りていないかに、きちんと向き合ってもらわないといけなかった。

『自分はプロのアーティストだ』という自覚がある人は、ゴールを決めようと前線にいるフォワードのようなもので、スタッフやファンからのパスを最後にゴールに打ち込んでいくような、様々な人の夢を受けて最後に自分の力で実現させていく覚悟と責任が生じます。

でも、一口に『デビューしたい』と言っても、デビューして何がしたいのか、どんなアーティストを志向しているのかが明確にないと、パスが来ても打てないわけです。その準備と自覚を育むための『擬似プロ審査』でした」。

SKY-HI(日高光啓)
 1986年12月12日生まれ、千葉県出身。ラッパー、トラックメイカー、プロデューサーなど、幅広く活動する。2005年AAAのメンバーとしてデビュー。同時期からSKY-HIとしてソロ活動を開始。20年にBMSGを設立し、代表取締役CEOに就任。「THE FIRST」のテーマソング『To The First』が配信中。

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(ライター 横田直子)

[日経エンタテインメント! 2021年9月号の記事を再構成]

日経エンタテインメント! 2021年 10 月号【表紙: すとぷり】

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