“白”辻村と“黒”辻村

『鍵のない夢を見る』で直木賞を受賞した際、ファンから「もっと他の作風も書けるのに、誤解されてしまう…」と心配されたほど、深い思い入れをもつ読者が多い。

「『“白”辻村が人気だけど、自分は“黒”辻村推しですね』とか、『かがみの孤城』で本屋大賞をいただいた時は『初辻村で恐縮です』って、古いお客さんがいるお店みたいな言われ方も(笑)。読者に囲まれているのは、すごくうれしい」

デビュー18年目。「もう、どんなものを書いても怖くない」と言う。

「少し前までは、どの作品も、その時の自分にしか書けないものだと思っていました。負けん気もあったし、野心もあった。でも、最近は、冷静に、プロになって書けている気がします。書くことが楽しくなってきたというか。楽ではないんですよ。悩むし、迷うことばかり。でも、最後には、これでいいんだ、と自分を信じることができる。きっとこれから先も書いていけると思います」

辻村深月の“新たなる代表作”は、こうして生まれてゆくのだ。

(ライター 剣持亜弥)

[日経エンタテインメント! 2021年8月号の記事を再構成]

『琥珀の夏』
 かつてカルト的だと批判され世間の注目を集めた団体〈ミライの学校〉の跡地から、子どもの白骨死体が発見された。30年前の夏、体験合宿に参加したことがある弁護士の法子は、その遺体が、友達のミカではないかと思い始める。2019年から山梨日日新聞ほか11紙に順次掲載された連載を単行本化。表紙の、はるな檸檬による装画も印象的。童話「きこりの泉」のように、「あなたが閉じ込めた記憶はどれ?」と問いかけてくる。
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