主要産地であるゲネカ村。山には現地で「青松」と呼ばれる樹木が群生、ここでマツタケが採れる。収穫は8月に始まる。(写真提供:Yeshey Nidup/Matsutake Ugyen Export)

ステイホームで楽しめるブータン産マツタケ

マツタケは収穫後、時間がたつにつれどんどん鮮度が落ちてしまう。みずみずしさがその質の生命線であるだけに、いかに早く店などに届けられるかが重要だ。望月さんがFUIのマツタケを使い続けるのは、ここに大きな理由がある。鮮度が国産と変わらないというのだ。「産直であれば別ですが、国産でも豊洲市場を経由すれば店に商品が届くまでに1日半かかります」と望月さんは話す。

一方、FUIではブータンのゲネカ村のように空港に近い産地であれば、朝採れのマツタケをその日のうちに空輸できる場合もある。日本の空港からは店などの納入先に直接届けるので、収穫から2~3日程度しかかからない。「中間に業者を入れず、通関なども自社で行っているため、ベストな鮮度で届けられる」(植山さん)という。

マツタケのオフシーズンでも、別品目の輸入などで毎日のように現地と連絡を取り合い、良好な関係を築いていることが、輸入体制作りを支える。FUIが手掛ける前からブータンのマツタケを扱う業者はあったが、こうした体制により、一昨年までに同国産のシェアでは約8割を占めるまでになった。現在は新型コロナウイルス禍で飛行機の減便の影響を大きく受けているが、今年は4トン前後の取り扱いを予定している。

日本料理 太月の主人、望月さん。自身、キノコ狩りをするほど、キノコ好き

さらに、ブータンのマツタケは産地の標高が高いため、虫がほとんどいないというメリットもある。「うちのような料理店の場合、カウンター席の前にマツタケを置き、お客様の目の前で調理します。だから、虫食いがあるものは商品にならない。国産は、仕入れた商品のだいたい2割ぐらいに虫食いがあるように思いますが、ブータン産は1シーズンに1回か2回あるかないか」(望月さん)

虫食いは、割ってみなければプロでもなかなか分かりにくいそう。もちろん、天然のよいキノコだから虫食いもあるわけで、本来はきれいにして加熱調理をすれば問題はない。国産マツタケを販売するオンラインショップには虫出しの方法も紹介されているが、高級食材であるだけに、ほぼ虫食いを心配しなくてもいいとは、一般の人が購入する際の評価にもつながりそうだ。

さて、気になる値段だが、マツタケの価格は年により変動するため、単純に相場を国産と比較するのは難しいそう。でも、「例えば国産が不作だった一昨年は、ブータン産の価格は国産の5分の1ぐらいでした」と望月さん。今年はコロナの影響でブータン産は輸入コストが大幅にアップしているものの、FUIではそれを価格に大きくは反映していない。

特に同社サイト「ブータン松茸 SHOP」でオンライン販売する一般向け商品は、マツタケの価格を昨年、一昨年と同じに据え置き、送料込みで1キロ2万6760円とした。300グラムなど少ない容量からも販売し、ステイホーム需要からか、「今年は一般のお客様への販売がコロナ前より伸びています」(植山さん)という。

客単価が2万~3万円になる高級店である太月ならば、国産マツタケにこだわることもできそうだが、「価格が高い国産をほんのちょっと使うぐらいなら、ブータン産をたっぷり使った方がお客様にも喜んでいただける。実は、香りも国産に比べ分かりやすいんです」と望月さんは言う。「国産は少し泥のような香りがして、それが国産である証です。でも、泥のような香りが苦手な人には、ブータン産の方がマツタケらしい香りをクリアに感じることができるんです」

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売り切れなかったマツタケは極上炊き込みご飯に