スティーブ・ジョブズらの豊富なエピソード

その部分はアップデート版では3章と4章になっている。ほぼ半分を新たに書き下ろしたというだけあって、1章にはメンターでもあった共著者との出会いと別れの物語が書き加えられ、2章には人材に関する意思決定というテーマが付け加えられる。そこで著者は「絶対失敗してはならないのが『最初に人を選ぶ』原則だ」と書きつける。スティーブ・ジョブズがアップルの最高経営責任者(CEO)に復帰したときのエピソードをはじめ、具体的な事例をたっぷり織り交ぜて、その原則の大切さを語っていく。さらに戦略、イノベーション、卓抜した戦術の遂行についても多くの事例から論じ、どうすれば偉大な企業をつくれるかが詳述される。

オリジナル版自体、さまざまな経営者の多彩なエピソードに彩られた構成になっているが、増補部分のおかげでその厚みがさらに増している。人、そしてその思いを言葉にしたビジョンを掲げた企業の豊富な実例が読む人を鼓舞する。『ビジョナリー・カンパニー』シリーズの愛読者が『ビヨンド・アントレプレナーシップ』が一番好きというのもうなずける。そんなオリジナル版の起爆力がページの色で増補部分と色分けされているという丁寧な編集も相まって、魅力を損なわずに味わうことができる。

「500ページを超えるかなり本格的な本なのに、店頭に並べた瞬間からよく売れている」とビジネス書を担当する川原敏治さんは話す。オリジナル版の序文に「主に中小企業(大企業の中の小さな事業部門も含む)のリーダーのために書いている」とある。新版の序章にも「私はいまでも起業家やスタートアップ、中小企業のリーダーに強い関心がある」と書く。その狙いにこたえるように、小さなチームのリーダーまでもが手に取っているようだ。

業界研究ムック22年版が2位

それでは先週のランキングを見ておこう。

(1)かかわる人を幸せにするお掃除会社中澤清一著(きんざい)
(2)会社四季報 業界地図2022年版東洋経済新報社編(東洋経済新報社)
(3)お客様が集まる! 「ぼくだけ」の売り方松野恵介著(すばる舎)
(4)2030年 得する生き方、損する習慣 船ヶ山哲著(徳間書店)
(5)ビジョナリー・カンパニーZEROジム・コリンズ、ビル・ラジアー著(日経BP)

(八重洲ブックセンター本店、2021年8月15~21日)

1位は、クレーム対応と報告・連絡・相談で安心して働ける会社に変革した清掃会社の社長の著書。2位は刊行されたばかりの定番の業界研究ムックの22年版だ。3位はマーケティングコンサルタントによる売り方の指南書。4位は、富の差につながる小さな習慣を説いた本だ。今回紹介した経営書は5位だった。

(水柿武志)

ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる

著者 : ジム・コリンズ
出版 : 日経BP
価格 : 2,420 円(税込み)