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有森裕子 東京五輪で見た「未来につながるレース」

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

前回(「有森裕子 スケボー選手たちが教えてくれた五輪の原点」)は、東京五輪の大会全体を通じて私が感じたこと、考えたことをお話ししました。今回は、大会後半に熱戦が繰り広げられた陸上競技の、トラック種目とマラソンについてお話しできればと思います。

日本の陸上競技の歴史を振り返ると、五輪や世界選手権でのトラック種目は予選落ちが当たり前の世界。五輪という大きな舞台で日本人選手が決勝に進出することは夢のまた夢で、そこには大きな壁が立ちはだかってきました。

しかし近年、男子の4×100mリレーで日本チームが2回もメダルを獲得するなど、少しずつ世界との距離が縮まってきています。今回の東京五輪も、選考会の段階から日本新記録が続出し、良い流れできていたので、決勝進出を期待しながらテレビの前で応援していた陸上ファンも多かったのではないでしょうか。

残念ながら、「世界の壁は厚い」と言わざるを得ない結果もありましたが、そんな中でも、未来につながる素晴らしいレースを見ることができました。

一際目立った選手といえば、男子3000m障害で日本人初の7位入賞を果たした三浦龍司選手(順天堂大学)や、女子10000mで1996年のアトランタ五輪以来の入賞となる7位に入った廣中瑠梨佳選手(日本郵政グループ)、そして、女子1500mで日本人初の8位入賞を遂げた田中希実選手(豊田自動織機TC)です。

外国人選手に見劣りしない頼もしい走りで、見事に入賞を果たした彼・彼女たちは、トラック種目の決勝で日本人選手が外国人と互角に戦うという新たな歴史を作ってくれました。

中でも印象的だったのが、どの選手よりも小さな体で女子1500m決勝のスタートラインに立った田中選手の走りです。トラック1周(400m)を62秒で走るというハイペースのレース展開の中、外国人選手に引けを取らない広いストライドとリズムを保ちながら最後までスピードが落ちなかった田中選手の力強い走りは、本当に素晴らしいものでした。世界最高峰の舞台で、準決勝でも決勝でも4分の壁を破るという結果には、ただただ驚くばかりです。

レース直後のインタビューでも、しっかりと自己分析や次の課題の発見ができていて、その聡明(そうめい)な受け答えにも頼もしさを感じました。田中選手だけでなく三浦選手、廣中選手もですが、五輪という大舞台で日本記録を更新し、成長を遂げていく選手が出てきたことは、「日本人選手もトラック種目で外国人選手と互角に戦えるのだ」というイメージを描かせ、次に続くアスリートたちの気持ちに火をつけたのではないかと思います。

マラソン女子の一山選手はもっと上を狙えたのでは

五輪の閉幕直前の7日と8日には、男女のマラソンが開催されました。女子のレースでは、一山麻緒選手(ワコール)が8位に入り、2004年のアテネ五輪以来17年ぶりとなる入賞を果たしました。鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)は19位、前半果敢に攻めた前田穂南選手(天満屋)は33位に終わりました。

一山選手の入賞は素晴らしかったのですが、猛暑の中でスローペースの展開が予想され、コースの特徴をつかみやすい母国開催だっただけに、一山選手が最後まで先頭集団に入ってメダル争いに加われなかったのは、私個人としては少し残念でもありました。これまで積み重ねてきたレベルの高い練習内容や、2時間20分台の持ちタイムから見ても、メダル獲得の可能性は十分にあると私は考えていました。

前田選手はケガの影響で練習できない期間もあって、万全の状態ではなかったと聞いていました。おそらく序盤はスローペースに合わせるのではなく、自分のペースで先頭を引っ張った形になったのだと思いますが、自分が思うほどついてはいけず、中盤以降は後退してしまったのでしょう。

鈴木選手は、他の選手のペースの変化に惑わされないために後方に位置取りをしたようですが、まだ3回目のマラソンでは、そこから先頭集団にイメージ通りの入り込みをするのは難しかったのかもしれません。特に、猛暑で脱落していく選手が多い夏のレースでは、後方で先頭集団の様子を見ながら走り続けるとリズムに乗れないケースもあるので、先頭集団の中の後ろを走りながら粘る戦略もあったかなと思いました。

一山選手は、位置取りは良かったものの、少し本来のパワフルな走りではなかったように思います。下半身の動きに重さを感じましたし、当日の気温や湿度は確かに高かったですが、あのスローペースで彼女がそこまでバテるとは思いませんでした。どの選手も、私の現役時代とは比べ物にならないハードな練習をして挑んだと聞いていましたので、この結果は少し意外に思いました。

五輪で結果が出せる選手とそうでない選手の違い

五輪のような大舞台で結果が出せるか否かは、当日の気候やレース展開に対する順応力だけでなく、「自分は何を望み、それに対してどこまでやれるとイメージしているか」が大切です。このイメージがなされていればいるほど、順応力は高くなるのではないかと思います。

今回の五輪は、猛暑で湿度も高く、コロナ禍で練習場所も限られ、思い通りの調整ができなかったかもしれません。しかし、例えば、2012年のロンドン五輪は、足場の悪い石畳のマラソンコースがいかに選手にとって不利かということが盛んに指摘されていました。しかし、蓋を開ければ、女子マラソンでは五輪新記録が出るほどの快走が見られました。どんな環境だったとしても、周りから入ってくる情報以上に、本人が何をイメージし、何を考えて走るかが大事なように思います。

私自身の話をしますと、銅メダルを獲得した1996年のアトランタ五輪で、故・小出義雄監督からもらった指示はたった1つでした。

「30kmを過ぎて1カ所だけ短い下りがある。そこはどんな状況でも飛ばせ。下り坂はお前の唯一の武器なんだぞ」

私も納得したので、その指示を守りました。それ以外は、監督の指示を仰ぐことなく自分の意思で走りましたし、監督も私を信じて任せてくれました。頭の中にあったのは、「メダルの色は何色でもいいから、もう一度メダルを取って、自分の人生を自分の意志で切り開きたい」という強い思いでした。

また、結果としてメダルを獲得できるか、もしくは自らの目標を達成できるか否かの分かれ目は、レース当日に、「いかに自分自身に気持ちを向け、自分が求めるものに集中できるか」ということも挙げられると思います。語弊を恐れずに言うと、「自分のために挑む」ということです。

私自身、バルセロナでもアトランタでも、レース当日はひたすら自分に集中し、「自分の最高の走りがしたい、自分のためにがんばろう」と、ただそれだけを考えていました。コーチや家族など、今までお世話になった人たちへの感謝、その人たちに恩返しをするという思いは当たり前にある上で、本番では、その最高の表現をするために、ただひたすら自分のために走る。そのことが、自分を大事にしてくれた人たちに喜んでもらうことにつながると私は考えています。

試合前夜に変更されたスタート時間、遅すぎた決断

なお、今回の女子のレースでは、大会の運営に大きな問題があったことにも触れておきたいと思います。大会組織委員会はレース前夜、猛暑を理由にスタート時刻を朝7時から6時へ、1時間早めると決めました。変更自体はとても正しい判断でした。ただ、それを公式に発表したのがレース前日の19時半ごろだったと知ったときには耳を疑いました。

朝7時からレースが始まる場合、選手たちがおおよそ何時に寝るのか?という予測が、陸上関係者であればつかなかったのでしょうか。19時前後には布団に入って寝ている選手が大半と想定されるはずです。それが、こともあろうに一旦起こされ、急な変更があることを知らされたら、選手たちは緊張して寝つけなくなることもあり得る話です。これはアスリートに少なからず負担をかけたと思います。

五輪の開催期間中は、運営側はアスリートファーストの対応を取るべきであり、なぜもっと早い時間帯に決断できなかったのかと残念でなりません。これに関しては、「どの選手も同じ条件だから」では済ませてはいけない問題だと思います。

給水地点で見えた大迫選手の戦略

さて、五輪最終日に行われた男子マラソンでは、大迫傑選手(ナイキ)が 2012年のロンドン五輪以来となる6位入賞を果たしました。一方、猛暑の影響もあり、中村匠吾選手(富士通)は62位、服部勇馬選手(トヨタ自動車)は73位という悔しい結果に終わりました。

「8月8日のマラソンを現役選手としてのラストレースにします」と大舞台の直前に公言した大迫選手は、五輪をそう位置付けることで自身を追い込み、覚悟を持って挑み、先頭集団を最後まで懸命に追いかけた粘り強い走りを見せて、見事な有終の美を飾ったと思います。やり切ったように、少し笑顔を見せ、沿道に手を振ってゴールした姿も印象的でした。

彼は「東京五輪で自分はどう走るか」を真剣に考え、イメージし、自分の意思で冷静な判断をして走ったと思います。特に印象的だったのが、位置取りでした。今回のコースは反時計回りの周回コースだったので、道路の左端を走ればカーブを曲がるときに最短距離を走ることができます。序盤、先頭集団の中を走っていた服部選手をはじめとした多くの選手が左端の位置取りを選んでいたと思います。しかし、大迫選手はなぜか右端を走っていました。

最初はなぜ不利な大回りをするのだろうと不思議に思っていたのですが、しばらくして、気づいたのが給水地点でした。給水テーブルは全て右側に並んでいて、左端を走っていると給水を取りにくくなります。猛暑の中では選手も給水に必死になるため、給水ポイントは特に混雑し、スピードを落としたくないランナーたちが自分のボトルを探して右往左往し、ぶつかったりするなど、さまざまなハプニングが起こります。

左側を走っていた服部選手も、給水のたびに混雑した集団の中へ入っていき、大きくペースや体を揺さぶられたように思います。酷暑でのレースほど、少しでも自分のペースが乱れるとそれだけで体力が消耗し、ストレスがかかります。大迫選手は猛暑の中で後半襲ってくるダメージをいかに少なくするかということを考え、確実に給水を取り、途中で帽子も交換するなど、暑さ対策にこだわっていた姿が印象的でした。

ただ、女子マラソンに続いて再び運営側の話をすると、給水地点のテーブルの間隔やボトルの並べ方は、選手にとっていささか取りにくいのではないかと感じました。各国のランナーたちの給水テーブルは隙間なく並び、テーブルの上に掲げられた目印となる国旗も、走りながらだと重なり合って見つけにくい位置にあったように思います。せめて給水ポイントの間隔を空けたり、国旗の位置を上下にずらしたり、猛暑である場合、道の右側だけではなく中央にもテーブルを並べて、両側から給水ボトルが取れるような策もあったかと思います。

フランス代表の選手が給水ポイントでボトルを結果的になぎ倒してしまうことになり、世界中のメディアがスポーツマンシップに欠ける行為だと批判していましたが、私はあの映像を何度もコマ送りして見ても、テーブルから体が離れた体勢から必死に手を伸ばして、水滴のついたボトルをうまくつかめず、何度となくつかもうとして起こしてしまった状況のように見えました。悪意ある意図的な行為ではなく、給水の場所や並べ方、本人の位置取りに問題があったように思います。こうしたアクシデントも予測して、運営側や選手側が事前に準備することは大事なのでしょう。

真っすぐにマラソン人生を切り開いた大迫選手

大迫選手に話を戻しましょう。初めて彼の存在を知ったとき、今までにいないちょっと変わった選手が出てきたなと思いました。実業団に入って駅伝なども走る日本の長距離界のシステムの中で、実業団を1年で辞めて海外に渡り、自分よりも強い外国人選手に混じって必死に努力し、トップにい続け、自分の意志を貫き続けることは容易なことではありません。前向きに自らが信じて決めたことをやり抜く生き方は、多くのスポンサーやサポーターを引き寄せ、彼に憧れる若い選手たちも多くいます。

彼がレース後のインタビューで「(これまで)真っすぐ進んできた。競技以外でも真っすぐに進んでいきたい」と答えていたように、これからも自分の道を切り開くスタイルは続いていくのだと思います。2020年には選手育成プロジェクト「Sugar Elite」を立ち上げ、この8月からキッズを対象にしたランニングクリニックの全国行脚が始まると聞きます。今大会を通して大迫選手からはマラソンにかける思いや意志、真っすぐな生き方を見せてもらい、私自身、今一度がんばらなければと思わされました。

(まとめ 高島三幸=ライター)

[日経Gooday2021年8月20日付記事を再構成]

有森裕子さん
元マラソンランナー(五輪メダリスト)。1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。

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