2021/9/13

1990年代初頭、惑星科学者のマーク・マーリー氏は、土星内部の物質の動きによって、土星に近いところにある暗くて幅の広いC環に波紋が生じ、それを観測できるのではないかと考えた。土星の心臓が鼓動し、内臓が動き、全体が脈動する。その振動が環の粒子と相互作用し、C環に「スパイラル密度波」と呼ばれる波紋を形成するのだ。

マーリー氏のアイデアは「100%正しいことがわかりました」とマンコビック氏は言う。しかし、彼の予想を裏付けるためには、20年以上の歳月と数十億ドル(数千億円)規模の宇宙探査が必要だった。

13年、米航空宇宙局(NASA)の土星探査機カッシーニのデータを調べていた科学者たちは、環の中に初めて地震の痕跡を見つけ、それを利用して土星の内部をのぞいてみた。研究チームは、この新しい研究分野を「土星地震学(kronoseismology)」と呼び、観測された波紋のほとんどを土星内部の動きと関連付けた。19年には、この手法を用いて、土星が10時間33分で1回転していることも突き止めた。

現在は米アリゾナ大学に在籍し、今回の論文の査読を担当したマーリー氏は、「長い歳月を経て、土星の環の波が実在することがついに確認されました。私たちが予想したような波が20個以上見つかりました」と言い、「せっかちな人にはお勧めできない研究分野です」と笑う。

しかし、マーリー氏が予測しなかった不思議な波が少なくとも1つあり、マンコビック氏と同じくカリフォルニア工科大学のジム・フラー氏は、この波を利用して土星の内部を探った。

「彼らは、土星のコアが徐々に変化してゆく不明瞭なものである場合にのみ、この特殊な波と、それ以外のすべての波を説明できることを、非常に説得力のある形で示しました」とマーリー氏は言う。「この波は惑星深部の状態に非常に敏感なのです」

土星の巨大なコア

マンコビック氏とフラー氏は、土星の環の波紋を利用して、土星の中でコアが大きな部分を占めていることを明らかにした。土星のコアは岩石と鉄の塊だろうと予想されていたが、今回の分析により、水素とヘリウムと氷と岩石が混ざった、輪郭の不明瞭なスープのようなものであることがわかった。土星を真っ二つに割っても、玉ねぎやあめ玉や地球のようなはっきりした層状構造は見られない。コアの境界は曖昧で、中心に近づくほど物質の濃度が高くなっていく。

マンコビック氏は、自分たちが導き出した土星の描像があまりにも奇妙だったため、環の波紋を別の方法で説明しようと試みたこともあったという。「この描像を否定するため、できるかぎりのことをしました」と彼は言う。

しかし、彼らが導き出した土星のコアのモデルは、科学者たちが土星から収集した大量の重力データときれいに一致していた。また、木星のコアが同様の低密度の混合物である可能性を示したNASAの木星探査機ジュノーの観測結果にもよく似ていた。

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