雨の日は軽量ポンチョ 避難所では開いて間仕切りに
ゲリラ豪雨や超大型台風など、近年は大規模な自然災害が頻発している。被害は大きく、避難所生活を強いられるリスクも高まっている。
そうした状況を背景に、2021年6月に発売されたのが「マルチポンチョ PA+NCHO」(税込み1万4300円)だ。避難所での使用シーンを強く意識したポンチョで、開発したのは「#合繊でくらしを変えるプロジェクト」。繊維素材を製造するカジナイロン(金沢市)などで構成されるカジグループが、「繊維メーカーが集まっている北陸をアピールし、製品を直接作りたい」との考えから、20年に立ち上げたブランドだ。
この取り組みをまずは知ってもらい、消費者の評価を直接受けるため、クラウドファンディングの「Makuake(マクアケ)」を使って商品化に至った。防災関連のメーカーや小売店からの引き合いが多く、21年9月以降はカラーバリエーションを増やし、本格的な販売を予定するほどの人気を見せている。
普段使いを意識しつつ、避難所生活にも対応
「避難所生活の原因の8割は、台風や大雨によるもの。普段は持ち歩いてポンチョとして使い、避難所生活でも活躍する製品を作ろうと考えた」。そう話すのはカジグループの1社であるカジレーネ(石川県かほく市)の砂山徹也氏。今回、PA+NCHOのチームリーダーを担当した。
これまでのポンチョでも避難所の床に敷いて、ブルーシートのように使えるものはあった。マルチポンチョはそうしたシート機能に加え、パーティションとして使いやすくした点がポイントだ。
シートとして使うなら1枚の平たい布になれば事足りるが、パーティションとして使うには不便。そのためマルチポンチョは、開いて柱などにくくり付けたり、付属のカラビナ(一部を開閉できる金属リング)を付けたりできるよう、ひもを備えている。単にひもを付けただけでは、ポンチョとして使うときに邪魔になる。そこで「使いやすさを維持したまま、収納できるようにした」(砂山氏)という。
肝心の着心地は?
ポンチョとして使う際、ファスナーではなくスナップボタンで閉じるようにしたのにも理由がある。従来のファスナー式の開閉は表面のみで、その方向も決まっている。一方、ボタン式なら開閉は表裏を問わず、方向は上下どちらからでも対応できる。また、砂山氏によれば、「ファスナー式は裾が引っかかるなどして外せなくなる危険があるのに対して、ボタン式は容易に開く。壊れにくいのもメリットだ」という。
実際に着てみると、布地の軽さと薄さに驚いた。他のポンチョと比べても優れていると感じる。
繊維メーカーであるカジナイロンは、糸を完全によらずに少し戻す「仮より加工」を得意としている。髪の毛にパーマをかけるように糸をふわふわに加工したり、バネ構造を持たせたりするのだ。同社のこの糸で織った生地は強く、ストレッチ性を持たせられるため、大手アウトドアメーカーでも使われているほどだ。
長年培ってきた、細い糸を加工する技術によって軽さや薄さと、高密度による強度を両立させた。「織機の整備やカスタマイズも自社でカバーできる。そこに経験も加わって、細い糸を織れるのが当社の強み」と砂山氏。
元の生地が薄くて軽いため、表面にはっ水加工を施し、裏地に防水透湿シートを貼っても236グラムの軽さを保てる。防水性を表す耐水圧は約1万1000ミリメートルで、大雨にも対応する。
前側よりも後ろ側が長くなるようにデザインされていて、着心地も自然だった。見た目を含めて、パーティションとしても使えるとは思えない仕上がりだ。
畳んで持ち歩く際、収納ポーチを使わず、本体と一体化したポケットにそのまま収納できる点も便利。避難時の荷物を減らせ、カバンに入れておきやすい。簡易的なクッションや枕としても使えそうだ。
冒頭で記した通り、21年秋にはアースカラーを意識した新色の展開も予定している。さらに幅広い層に受け入れられる商品になりそうだ。
(フリーランスライター 納富廉邦)
[日経クロストレンド 2021年8月16日の記事を再構成]
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