元乃木坂46伊藤万理華 映画主演、自粛中も役のままで
名優・勝新太郎を敬愛する時代劇オタクの女子高生ハダシは、撮りたい映画のイメージにぴったりの青年、凛太郎と出会う。凛太郎を口説き、7人の仲間を巻き込んで映画監督に挑むハダシだったが、凛太郎はなんとタイムトラベルしてきた未来人だった……。CMなどで活躍する松本壮史が監督を務め、人気劇団「ロロ」の三浦直之が脚本を手掛けた映画『サマーフィルムにのって』。2017年に乃木坂46を卒業後、俳優・クリエーターとして活動してきた伊藤万理華が、ハダシ役で主演した。
「オファーを受けたのは18年です。松本監督は乃木坂46で他のメンバーの個人PVを撮っていて気になる存在でした。脚本を読むと映画を作る話に、恋や友情、SF要素も入っていて盛りだくさん。ワクワクドキドキできて、本当に面白かったです。
ハダシは時代劇が好きで、言動も面白くて。キャラが立っているところが魅力的だなと思いました。自分に共通しているのは、モノ作りが好きなところ。1個のことに集中すると、他のことが見えなくなるくらい突っ走っちゃうところもそっくりで、共感できました。
役作りでは髪をショートに。好きなものに没頭していたら見た目も気にしないと思ったので、まゆ毛はあえて伸ばしっぱなしにしました。それから、監督に『見ておくべき勝新太郎作品リスト』をいただいて、『座頭市』から見始め、勝新の生き様なども調べました。
現場で力を入れたのは、劇中で一緒に映画を撮影する『ハダシ組』のみんなと仲良くなること。普段から友達で、その空気感を映像として記録しただけ、みたいな感じにしたくて、ずっとおしゃべりしたり、チェキを買って現場に持ち込んだりしました。
大変だったのは、撮影の途中で新型コロナウイルスの自粛期間になって、3カ月も空いてしまったこと。いつ再開できるか分からないし、このまま誰にも届かない作品になってしまうかもしれないと思うと不安で、プライベートもままならない。撮影はなくてもずっとハダシでいるようにしました」
映画の尊さを知ってほしい
完成した作品は、映画作りに奮闘する高校生を、時にチャーミングに、時に感動的に描いたSF青春映画になった。セリフで印象的なのは、「映像は5秒がスタンダード、1分で長編。未来に映画はない」という未来人の言葉。TikTokなどの短い映像が主流になりつつある今、リアリティーがある。
「映画がなくなる未来になったらどうしようって、すごく考えました。もちろん短い映像でもいいものはあるけど、映画は長編だからこそ夢がたくさん詰まっている。何かしながらではなく、集中して大きな画面で見るからこそ、余韻に浸れる良さがあると思うんです。映画好きとしては、いかに映画が尊いかを若者たちに知ってほしい(笑)。配信が当たり前の時代ですけど、『サマーフィルムにのって』は、ぜひ映画館で見てほしいです」
乃木坂46の1期生としてデビューして10年。俳優として活動する一方で、パルコで個展を開くなど、多彩な活動をしてきた。今年は、5月から舞台『DOORS』に出演し、7月から『お耳に合いましたら。』(テレビ東京)で地上波連続ドラマ初主演。そして『サマーフィルムにのって』の公開と波に乗る。
「この山場を乗り越えられなかったら、次はないぞって言われている感じです(笑)。でも、忙しいって、ありがたいなと素直に思います。卒業してしばらくお仕事がない時期を経験しているし、地上波のドラマ主演がどれだけ大きなことか分かっているつもりなので。
乃木坂46に受かってから、初めてのお仕事が個人PVだったんです。その時、15歳ながらも監督とコミュニケーションを取っている自分を俯瞰して、『私の好きなことって、これだ!』と自覚したことをよく覚えています。それから演技や映像の仕事に興味があると言い続けて、今があると思います。
もしコロナ禍で持ち続けてきた夢がぶれてしまっている方がいらっしゃったら、何が何でも映画を完成させようというハダシの熱意に、初心を思い出してもらえたらうれしいです。私もまだ俳優としてスタートラインに立ったばかり。誰かの人生に影響を与えられるような演技を重ねていきたいです」
高校3年生のハダシが、名画座で出会った凛太郎に一目惚れ。凛太郎主演の時代劇を作ろうと奮闘するが……。共演は金子大地、河合優実、祷キララら。昨年の東京国際映画祭特別招待作品。(公開中/ハピネットファントム・スタジオ配給) (C)2021「サマーフィルムにのって」製作委員会
(ライター 泊貴洋)
[日経エンタテインメント! 2021年9月号の記事を再構成]
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