歯ぎしり、寝汗…潜む意外な原因「夜間低血糖」
糖尿病でない人も血糖値の急降下に注意
低血糖というと、糖尿病の薬が効きすぎて血糖値が極端に下がるというイメージがあるが、ここでいう夜間低血糖は糖尿病でない健康な人にも起こるという。「血糖値の数値ではなく、急激に変動することが問題」と新宿溝口クリニックの溝口徹院長。
睡眠中に血糖値がガクンと下がると、それを回復させようとアドレナリンやコルチゾールなどの興奮系ホルモンが一気に分泌され、交感神経が優位に。その結果、寝汗や歯ぎしり、悪夢などに見舞われ、睡眠の質が悪くなる。図1のグラフは、46歳の健常男性が持続的に血糖値を測定した結果。睡眠中に血糖値が急激に落ち込んでいるが、このとき被験者は寝苦しくて熟睡感が全くなく、翌朝は首のこわばりもひどかったという。
「2011年の欧州糖尿病学会では、1086人を対象にした調査で、夜間の軽い低血糖が睡眠の質を低下させ、翌日の体調も悪化させるとの報告があった。あまり知られてないが、睡眠障害だけでなく、パニック障害やうつ病、体調不良なども、血糖値の乱高下が引き金になっていることが多い」と溝口院長。
□ 寝汗や歯ぎしり、悪夢を見るなど、睡眠の質が悪い
□ 寝る前に何か食べないと眠れないことがある
□ 午後3~4時ごろにだるさや眠気、集中力の低下を感じる
□ 朝起きたとき、頭痛や肩こり、疲労感などがある
□ わけもなく不安感に襲われるなど、感情の起伏が激しい
午後4時ごろは1日の中で血糖値が最も低くなる。血糖値の調節障害がある人はこの時間帯に症状が出やすい。上の項目に該当する人は、夜間に限らず日中も血糖値の乱高下が起こっている可能性が大。
低血糖になると寝汗や悪夢が起きるのはなぜ?
インスリンが過度に血糖値を下げる
↓
寝ている間に低血糖になる
↓
血糖を上げようと、アドレナリンやコルチゾールなどのホルモンが一斉に分泌される
↓
自律神経の交感神経が興奮する
↓
その結果、寝汗、歯ぎしり、こわばり、悪夢などが起きる
そもそも夜間低血糖を起こしている人は、日中も血糖値の変動が激しいという。糖尿病の糖負荷試験では、ブドウ糖をのんで2時間後までの血糖値しか調べないが、溝口院長のところでは5時間調べる。「通常の試験では『正常』でも、5時間測定すると血糖値が異常に乱高下していたり、糖を処理するインスリンが過剰に分泌されていたりして、血糖の調節障害が起こっている人が少なくない(図2)」(溝口院長)
改善法はあるのか。鍵は食事だという。「低血糖は血糖値がグンと上がった後、反動で起こる。血糖値を上げるのは糖質だけ。夜間低血糖を改善するには、夕食の糖質を抜くか、極力少なくして、食べる順番も最後に回す。こうして血糖値をなるべく上げない食生活をまずは1週間続ける。それでも改善しないなら昼食の糖質も抑えて、もう1週間様子を見て」と溝口院長。
血糖値の急上昇&急降下を防ぐには、ご飯やパンなどの糖質を抑え、たんぱく質を増やすのが一番。「懐石料理などは、最後にご飯が少しだけ出てくる。あれがお手本」と溝口院長。先に野菜や肉、魚などをしっかり食べ、糖質を食べるなら最後に少し。順番を変えるだけで、血糖値の上がり方が緩やかになる。
この人に聞きました
新宿溝口クリニック(東京都新宿区)院長。2003年、日本初の栄養療法専門クリニックを開設。睡眠中のくいしばりと血糖値との関係をテーマに、日本歯科大学と共同研究を始めたばかり。
(ライター 佐田節子)
[日経ヘルス2014年8月号の記事を基に再構成]
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