2021年も下半期に突入し、ラーメン界のトレンドが徐々に明らかになってきた。今年オープンした新店の顔ぶれを見ると、オーソドックスなしょう油ラーメンを今風にブラッシュアップさせた「ネオ・クラシック系」か、動物系素材(豚、鶏、牛等)の分厚いうま味と重厚なコクを前面に打ち出した「豊潤系濃厚ラーメン」を提供する店舗が目立つような気がする。
「ネオ・クラシック系」については、これまで何度か紹介してきたので、今回は「豊潤系」を取り上げたい。このタイプは、動物系素材のみから出汁(ダシ)を採ったものと、魚介素材を合わせてスープに用いているものとに大別される。今年はいずれも堅調で、中でも「濃厚つけ麺」のジャンルで優良店が複数誕生している状況は、特筆すべき事だと思う。
そこで今回は、濃厚つけ麺の新店で、際立つ2店を紹介する。東京・新橋の『麺屋周郷(めんやすごう)』と、『中華蕎麦ひら井』(東京都府中市)だ。皆様には是非、濃厚つけ麺の魅力を体感してもらいたい。
~小岩の人気店が都心・新橋に降臨!細部にまでこだわり抜いた「つけ麺」は必食!~
2010年代以降、着実に店舗数を増やし、今や都内屈指のラーメン激戦区となっている新橋エリア。その地に今年6月、産声を上げたのが『麺屋周郷』だ。
より正確に申し上げれば、京成小岩駅(東京・江戸川)近くにあった人気店『麺屋寿』が、1年余りの空白期間を経て、新たに場所を移して完全リニューアルした店である。
『麺屋周郷』の主、周郷寿克氏は7年間に及ぶ間に『寿』を一躍人気店の地位に押し上げた立役者だが、海外への出店話が浮上したことで20年4月、いったん店を閉めた。ところが、その後、新型コロナウイルス感染症の影響で、海外出店話が立ち消えとなる不運に見舞われた。そこで心機一転、『寿』で提供していたものをゼロベースで見直した「つけ麺」を新たに開発。約1年2カ月の雌伏の時を経て、『麺屋周郷』として新橋の地で再スタートした不撓不屈の人だ。
『周郷』が現在(今年8月時点)、提供するのはつけ麺のみ。多岐にわたるメニューを作り分けていた『寿』時代とは打って変わり、メニューを1本化した狙いについて、店主はこう話す。「『寿』でも、丁寧に創っていたつもりですが、全てに全力を注ぎ込めていたかと問われれば、自信がありません。『周郷』では一切妥協せず、現時点での自分の全力を注ぎ込もうと決意しました」

「つけ麺」は、3種類のチャーシュー(豚ロース・豚バラ・鶏むね肉)とメンマが別皿に美しく盛り付けられている。和情趣豊かなビジュアルが、視覚に強く訴求する。素材のうま味を極限にまで凝縮したことが見た目にも明らかなスープ、適量の水分を蓄え艶やかに輝く麺など、箸を付ける前から「間違いない」ことが分かる1杯に仕上がっている。