■6位 狼(おおかみ)は帰らず アルピニスト・森田勝の生と死(佐瀬稔)
340ポイント 一匹狼の登山家の生涯

山は文学の宝庫であり、登山家の生涯はそれぞれの物語を紡ぐ。1960年代~80年に谷川岳、アイガー、グランドジョラスなど国内外の岸壁に挑み続けた一匹狼の生涯がすさまじい。小説のモデルにもなった森田勝は「純粋なエゴイスト、世渡り下手な名クライマー」(松瀬さん)。ただ、幸脇さんは「最初は苦手に感じるアクの強い主人公に、いつの間にか肩入れしてしまう」。

記者出身のノンフィクション作家の先駆けである著者は、己を貫いた森田の生き方に深い共感を寄せる。「不器用で不運だが、孤独ではなかった」(藤村さん)との感慨が残る。

(1)山と渓谷社(2)2013年(文庫)(3)968円

■7位 知と熱(藤島大)
300ポイント 名将の理論と人柄 克明に

2019年ワールドカップで8強入りしたジャパン・ラグビー。戦前から続く消長の歴史の上に厳として立つ哲人が、早大と日本代表の監督を務めた大西鐵之祐だ。真剣勝負に勝つ戦術と組織作り、そして人間観察。内外の理論を貪欲に吸収し血肉化する探究心と創造力。大西の薫陶に接した著者が、その生涯と思想を01年に単行本にまとめた。

「命懸けの闘争と見返りを求めぬ愛、フェアネスを大事にした指導者の凜(りん)とした姿が鮮明によみがえる」(松瀬さん)。所収する講義録で大西が説く「スポーツをする意味」を「今の時代こそ読み解いてほしい」と山本さんはいう。

(1)鉄筆(2)2016年(3)1100円 ★

■8位 サラリーマン球団社長(清武英利)
270ポイント 野球の素人 改革の舞台裏

阪神電気鉄道の旅行部長から阪神タイガースへ。かたや東洋工業(現マツダ)の経理部門から広島カープに。野球の素人ながら球団運営に転じたサラリーマン2人が精魂を傾けた改革の行方は。元新聞記者で読売巨人軍球団代表を務めた著者が「ふだん注目されないところにスポットを当てた」(佐藤さん)異色のスポーツノンフィクション。太田さんは「サラリーマンという職業の多様性」に感じ入る。

上司の理不尽、事なかれ、守旧派の抵抗。「会社あるある」のオンパレードだが読後感は爽やか。それは本書に気概や夢、愛情が満ちているからか。

(1)文芸春秋(2)2020年(3)1760円 ★

■9位 「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー(高橋秀実)
260ポイント 下手にも「理」はある

有名進学校が2005年夏の地区予選で快進撃。いずれは甲子園か、と胸躍らせて訪ねると、目にしたのは個性的で「異常に下手な」面々とドサクサに紛れて打ち勝つ野球。著者は弱者の兵法の爆発を待つ。脱力系の筆致で「淡々と書かれているのに面白い」(藤村さん)。

開成のセオリーは普遍的とは言い難いが、監督と選手には「理」を語る自分の言葉がある。勝ち方は一つじゃない、という発想は多様性そのもの。「楽しくうなずきながら読み終えた」(内田さん)のも「紋切り型の高校野球ジャーナリズムを相対化」(河野さん)した自由さゆえか。ビジネス書としてもおすすめ、と太田さん。

(1)新潮社(2)2014年(文庫)(3)539円 ★

■10位 イチローの流儀(小西慶三)
240ポイント 天才の努力と日常 徹底取材

ショウヘイの前にはイチローがいた。米大リーグ史に残る天才の「仕事」に臨む姿勢や日常を歯切れ良くつづる。証言とエピソードも豊富だ。「僧侶に似た野球への取り組み、生き方」(大森さん)の細密な描写。ルーティンの意味が語られ、取材現場の緊張感が伝わる。

数あるイチロー本の中でも、オリックス時代の1994年から記者として長年取材した著者の作品が「面白くないわけがない」(松瀬さん)。記録の裏にある努力の蓄積。「イチローという選手をイチローが作り上げたプロセス」を知れば、その身近さとすごみがわかる、と青島さんは指摘する。単行本は2006年刊。

(1)新潮社(2)09年(文庫)(3)506円

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人間性があらわに 埋もれた好著再び
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